菊花は一人の誕生日とバレンタインを一緒くたにすることがある。
というかほぼ毎年そうだった。俊介よりも少し大きかったり量が多かったりするものを菊花は一人に渡していた。俊介よりも大きなチョコを貰うのを、一人は少しだけ嬉しく感じていた。流石に片親の菊花に誕生日プレゼントも欲しいとは言えなかった。
菊花の父親が死んでからはチョコを貰うことすらもできなくなったので、今まで菊花から貰えていたのは恵まれていたのだと一人は実感した。
一人が高校二年、菊花が高校一年生の頃に、学校生活で込み入ったことがあった結果、菊花が診療所に住む時期があった。秋の終わりから住み始め、年が明けても菊花はまだ診療所で共に暮らしている。そろそろ戻るのかもしれないが、一人は菊花がいいならこのまま住んでいればいいのにと思っていた。
バレンタインと誕生日を分けてプレゼントを貰ったのは、その年が初めてだった。
「はい、誕生日おめでとう」
「……いいのか」
「え? うん。要らないなら捨てていいよ」
「いや貰う。悪い、驚いただけだ。……ありがとう」
朝、挨拶をしてそんな風に包装された贈り物を受け取る。まさか貰えると思っていなかったので、一人は大層失礼な返事をしてしまい内心慌てた。
触った感じは柔らかいので、中身が何なのか気になってしまう。
「開けてもいいか?」
「えっ今? あとでにしなよ」
これから朝食なので菊花の言い分はもっともだったが、台所にいる静江が声をかけてくる。
「まだ出すのに時間かかるから、開けてていいわよ」
「え」
「ありがとう母さん」
多分気を遣ってそんな風に言ったのが解ったのでお礼を言っておく。恥ずかしがっている菊花を横目に、一人は包装を取っていった。
黒色の手袋が現れて、一人は菊花の気遣いを嬉しく感じた。
「助かる、菊花」
「いやあの、それ大きさ平気? 一応大きいの買ったんだけど」
「──ああ、大丈夫」
手にはめればちょうど良く収まったので、指を動かしながら平気なことを伝えた。
どうせもうすぐ暖かくなってくるだろうから、買わなくてもいいかと思っていたところだった。寒くは感じるけれど、どうせ学校に行くのもあとは半月ほどなので、今年はもう我慢すればいいと思っていたのだ。
「南さんを抱えたときに、以前のを汚してしまったんでしたか」
「そうです、血が固まってしまって流石に捨てるしかなくて」
様子を見ていた村井さんに言われて、受け答えする。
数日前に大怪我をした患者を助け起こしたときに、自分の手袋を駄目にしていた。新しく買おうか悩んではいたが、もう春物を売り始めている時期に探すのも面倒だと思っていたところだった。
よく見ていると感心し、菊花の気遣いに心が温かくなる。こうやって貰えるなら買わなくて良かったと思った。
「まだ寒いから買おうかどうしようか迷ってたんだ。助かった。ありがとう菊花」
プレゼントを開け始めてからずっとソワソワしている菊花に、真っ正面からお礼を言えば顔が少し赤くなっているのが見える。
「──うん、使ってもらえれば、えーと、嬉しい」
大事にしようと、菊花の照れた顔を見ながら一人は思った。
誕生日の今日、どれだけ寒くても平気だろう。