ある朝

ぼんやりとだがゆっくりと、しかしながら確実には覚醒した。

目を開けて直ぐに静かに驚く。でっかい胸板があった。…ああ、そうか。ドンのだ。だから大きいんだ。
昨夜のことを思い出して、そりゃ隣に居て当たり前だよなあと思った。そう考えながら目がちょっとずつ冴えていった。身体は気だるいが、動けないほどでもない。
は静かに上半身を起こして、ドンの寝顔を見た。

(…いや、寝顔が可愛いとかだったら、面白かったんだけど)

寝顔でもドンはドンだった。うん、ドナルド・オバーマンそのものだ。厳つくてゴツくておっさんくさい。
コイツ本当に同い年なのかと寝顔を見て改めて思った。何だろうこの貫禄。コイツ絶対サバ読んでるんじゃないかといつでも思ってる。残念ながら戸籍上はきちんとと同い年だった。世界は謎で包まれている。

乙女らしく寝顔の彼にキスするでもなく、はそのまま起き上がる。裸じゃやっぱり少し寒い。ドンが隣に居るからベッドの中は温かかったが、出れば気温に包まれて体温が行き成り低くなったことが感じられた。

(お風呂でも入ろう)

ドンの権力と富を最大限使って、ホテルのスイートルームなんて所に泊まっている。一生に一度有るか無いかの体験をこんな年で経験してしまった。これから先ドンと一緒に居ればもっと有り得ない体験ができるのかもしれない。楽しみなような怖いような。何せ相手があのドンだ。何とか頑張ろうと、思った。
とりあえず散らばっている自分の服を取ろうと腰を浮かしたら、後ろから抱きかかえられてベッドに戻された。

「…ドン、危ないことはしないで」
「勝手に何処かに行こうとするお前もお前だ。…おはよう
「ハイハイおはよう」
「……」

ドンは不満だった。何故その様な対応なのだ。
今までの女は事が終わったら直ぐに帰していた。もしくは自分から離れた。こうやって一晩一緒に居た女はが始めてだ。なのに何故この女はそんなにも対応が冷たいのか。何故もっと傍に居ない。朝の挨拶も適当すぎる。
そんなこと思われても、はドンのそんな生活に関しては知らないのだからしょうがない。多分聞いていたとしても一緒だったようにも思う。だってそんな、朝からドンといちゃいちゃだなんて、何だかちょっと寒気がする。
まあそのドンと昨日いちゃいちゃしたわけだが。
はため息をつきながら、腰に回されたドンの腕に触れる。太すぎるので振りほどくこともできないし、しようとも思わなかった。

「シャワー浴びるから、離してドン」
「何だそうか。ならば俺も入ろう」
「え、ヤダ。何それ」

本当に一瞬ドンは動きと思考が停止した。え、何それ。逆にドンがそう思った。

「シャワーだっつってんじゃん。二人で入る意味が解らないよ。お風呂なら解るけど。シャワーは一人で入りたいの。身体流すだけなんだから一緒に入る必要もないじゃん。寝てなよ」
「………」

そうしてはひらりとドンの腕から離れて行った。
ドンは片手で自分の頭を支えて、が入っていったバスルームの方を見る。何とも言えないこの感情。初めての経験だ。

「…俺にそこまできちんと言えるのはお前くらいだろうなあ」

だからこそ貴重で愛しいのだと、ドンは解っている。解っているけれど、この何とも言えない空気と感情は楽しくない。
楽しくないはずなのに、それでも笑ってしまう。
だからこそ手放せないのだ。

これだから彼女から手を引けない。ドンはわざわざ日本に来た甲斐があったと一人で笑った。



11/01/02
これの前の話を書きたいけれど長すぎるしどうしようか悩んでる。
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