雲水
「…何してんだうんこちゃん」
「見て解るだろう」
久しぶりに家に帰ってきた弟の阿含は奇妙な目つきで双子の兄を見た。
兄だけでなく、その膝元に居る女も。
正直この兄貴にそこまでの甲斐性があるとは思っていなかったので、この目の前の光景は不意を突かれた。神速のインパルスでも反応できないことがあったらしい。本当に一瞬だが時間が止まった。何度でも言うが、この兄貴がそんなことをするとは思えなかったのだ。
しかし雲水が膝枕をしている状況は雲水らしいと言える。彼女にしてもらっていないのが雲水の性格やら何やらを如実に現している気がした。
「普通逆じゃねえのか」
「……してほしいと」
「本当に対しては甘ーな」
それに関しては何も反論できなかった雲水だった。若干頬が赤いのは阿含だけが確認できた。
膝で寝てる幼馴染の彼女は、暖かくて心地良い。
クリフォード
「動くな」
「無茶言わないでよ…」
もぞっと動いただけでクリフォードにそう釘を刺される。機械じゃないんだから全く動くなというのは地獄だろう。
膝で寝てるこの傲岸不遜で女王様みたいな男は本当ワガママだなあとは思った。でも畜生、こうやって気を許してくれるのは素直に嬉しい。彼女っぽいことしてる!自分彼女っぽいことできてる!そんなレベルの低いことを考えた。何か悲しいかもしれない。
クリフォードはに視線も合わさず、自分も少しだけ動いて体勢を整えて口を開いた。いつも通りどこまでも自分が上な目線で。
「…寝る」
「ハイハイ」
苦笑しながらはため息を吐いた。これはこれで彼女の自分に甘えてるから良いけれど、やっぱりその甘え方もクリフォードらしい様だった。
目を閉じたクリフォードの、綺麗な金髪が目に入っては無意識の内に手を伸ばした。普段触ることなんてそんなに無いから、今のうちに触っておこう。文句を言われたら膝枕を止めれば良かった。だってこの状況は手持ち無沙汰だ。
まだ起きているだろうに、でもクリフォードは止めろとは言わなかった。昼寝をするにはもってこいな日和の中、そのまま、ゆっくりと時間は過ぎた。
クリフォードは勝手に寝っ転がって動くなって言うタイプ。
バッド
「…してもらったことが、ない?」
「うん」
「え、嘘」
「いやいや本当」
「嘘だあ。言えばしてくれたんじゃないの?」
「何かそういうの言えないような人だったり、うーん…何か言い出しにくかったり」
「えー、意外」
「これ結構気持ち良いんだねえ」
凄い幸せって笑うバッドを見て、はこれくらいならいつでもしてあげようと思って頭を撫でた。
筧
「(……生殺し?)」
顔を若干赤くして筧は必死にアメフト雑誌を読み進めた。正直記事の内容はあんまり頭に入ってない。寧ろ視界の端に彼女の頭がチラチラちらちら入ってくる。
勝手に自分の膝に頭を乗せて、そのまま眠ってしまった。筧はとても困っていた。動くこともできないし何か膝が温かくて、何だろうこの感覚。
ちょっと困ってるけれど、を起こそうとは思わなかった。もうちょっとだけ、自分が困っていても良いと思ってしまっている。いや、色々我慢しないといけないので困ってはいるのだけれど、でもまあ、良いかなと頭の端で考えている。
アメフト雑誌から目線を外してちら、との頭を見た。まだ起きない彼女の頭を、ぎこちない動きで筧は2・3度撫でて、またアメフト雑誌に集中しようと意気込んだ。
ドン
「は、膝枕?ドンに?無理でしょ嫌だよそんなの」
がそう言っていたことを聞いたドンの背中は、30・40代程度の男では出せないほどの哀愁を漂わせていた。
面白がって言ったバッドが逆に焦った。
「いやだって無理でしょう。嫌よドンを膝枕とか」
ドンの膝に頭を乗せながらはそう言う。彼は膝枕を自分にしているとき髪の毛を撫でてくる。はそれが好きだった。この男にそうやって優しい仕草をされると大事にされているという実感がもの凄い沸くので、はドンに膝枕をしてもらうのが好きだった。
でも自分がドンを膝枕するのは御免こうむる。
「体格的に無理よねー。直ぐに痺れそう」
「……まあ確かに、しょうがなくはあるが」
「諦めてよ」
はちょっとだけ苦笑した。まさかドンが膝枕なんぞに執着するとは。
物理的に色々無理だから膝枕は諦めてもらうしかないが、しょうがないからドンの好きなことをやってあげようとは先ずドンとの距離をゼロにした。
11/04/09
コメント下さったヒヨさんに捧げますー。
ドンは最初、本当に2行だけでした。あんまりだなと思って付け足した次第です。