You're my HERO!

良くんはね、ヒーローなのよ。



「ヒーローだあ?」
「そう」
「栗田先輩が…ヒーロー…」

の言葉に、炎馬メンバー一同は首を傾げた。
…正直栗田にそんな言葉は似合わない。ラインマンのヒーローなら解るが、どう頑張っても女に対してヒーローになるとは思えなかった。満場一致で意見が揃った。

「小結くんのとは違うけどね。良くんは弱虫で泣き虫だし」

栗田良寛はにとって弱虫で泣き虫な、ヒーローだ。

「弱虫で泣き虫な、ヒーローって…」
「言い得て妙じゃないかな」
「まあ泣きすぎだよな」
「そうよ。泣きすぎなの。良くんは小学校の頃いじめられっ子だったもの」
「え!?」

言ってしまえば栗田は体格が良いだけだった。
小学生の頃から子錦のような体格だった。鈍臭くて、のろま。頭も凄い良いわけではなく、誰かに何かを頼まれたら断れなかった。優しすぎるほど優しかった。でも、痛いものは痛かったからいじめられれば直ぐに泣いた。

「いっつも泣いててね。やり返せば全員泣かせることくらい出来たのに、それすらもしなかった。…昔から、良くんは誰よりも優しい」

だから、幼馴染の自分がいつも助けていたのだ。

「私昔はもっと勝ち気で口が回ってね。両親に泣くくらいなら笑っていなさいと言われてたから、人前では滅多に泣かなかった。加えて良くんはこう、面倒を見ていないと駄目だな、と思わせる何かが有ってね…」
「な、何か想像出来るような出来ないような…」

は昔を思い出す。彼は少し前まで泣き虫で弱虫だった。
誰かに言われて、何かをされてでないと、自分を高みに登らせられない。それが彼の良い所で、悪い所だ。
いつもいつも、泣いてばかりだった。
今は、そんなこと無いけれど。

「小学生の頃は私が良くんのヒーローだったの。変わったのは小学校高学年くらいかな。逆に私がいじめられるようになってね」
「えっ」
「あの泣き虫な良くんが体を張って助けてくれたのよ」
「……」

驚いているのか呆けているのか解らない顔をセナたちはしていた。今でしたら凄くよく解るけれど、小さい頃は確かにいじめられてたんだろうと考えれば、そんなことをしでかしたことが驚きだった。
は関係無く口を開く。

「ヒル魔くんみたいに頭脳戦は出来ない。阿含くんみたいに格好良く助けることも出来ない。ただその体格と腕力のみで、私の代わりをしてくれただけ。格好良くなくても、絶対に倒れることはなかった。そうして泣きそうな顔して、人の心配するの。大丈夫って言えば、泣き笑いして良かったって笑う」

とても素敵で格好良い、泣き虫で弱虫なヒーローでしょう?
笑顔ではセナ達に笑いかけた。
容姿や体型が格好悪い?確かにそうかもしれない。が芸能人で格好良いと思うのはよく名前が挙がるような人達ばかりだ。でも、身近な知り合いで全てを総合して言うならば、栗田良寛が一番格好良い。
だって、結局自分を助けてくれたのは彼なのだ。容姿も体型も頭脳も関係無い。
ただ自分は栗田に助けられた。
だから、にとって栗田はヒーローなのだ。映画や本で見るような凄いヒーローなんかじゃない。憧れからなるヒーローでもない。只々、自分を助けてくれた彼だけが自分だけのヒーローなのだ。

「良くんが、昔から私のヒーローよ」

はそう言って笑いながら、振り向く。栗田と雲水がアメフト道具を持って、の後ろで一時停止していた。
セナ達はが解っていて話していたのだと気付いた。ちょっとだけ、この女性にそこまで言わせた栗田を羨ましいと、思ったメンバーは少なくなかった。
は栗田に近付く。栗田はどうすれば良いのか解らなくて、とりあえず荷物を落とさないようにするので精一杯だった。

「泣き虫で弱虫だけれど、良くんは誰かを守ってるときが一番格好良い。だから、アメフトやってる良くんが一番格好良い。峨王くんや大田原くんと張り合って、後衛の皆を守って、投手にスナップする良くんが、誰よりもずっと格好良い」

にこやかに笑いながらはそう言って栗田を見た。わたわたしながら栗田は視線を色んな所にやる。雲水と目が合ったが、直ぐに逸らされた。雲水からしたら、何で今日この時に自分は栗田と一緒に荷物運びをしていたんだろうと自分の悪運を呪っていた。

「だから、アメフト頑張ってね」

結局慌てたまんまの栗田をそのままに、は練習グランドから出て行った。
その後、真っ赤な顔をした栗田が練習に更に精を出したのは言うまでもなく。



09/10/13
貴方は私のヒーロー!
ヒロインとの出来事以降、彼の守る強さが出てくるわけです。その前は絶対いじめられっ子だったに違いない。
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