You're my HERO!!

「あわわ…ちゃん、僕がヒーローって」
「格好良いって言ってましたよ。栗田先輩」
「あわわわわ…。そ、そんなことないのにね…」

照れて笑う栗田の顔は、どう贔屓目に見ても可愛い部類だとセナ達は思った。
確かに、本人が言うように格好良いとは言い難い。でもの話を聞いたら、にとってしたらこの笑顔を持つ栗田がヒーローなのだろう。
女の気配が全く無い自分達からしたらもの凄い羨ましいなあと、炎馬メンバーは思った。大学デビューしたんだし、そろそろこう、春が来ても良いんじゃないかと思ってる男は少なくない。

「でも嬉しいな。ちゃんがそんな風に思ってくれてるなんて」
「んはー!両想いってやつ?」
「ちょ、水町!」

普段そんなことしない水町が、深読みして大声を出す。モン太が止めるが、栗田には聞こえてないようだった。
に言われた言葉が、どんな褒め言葉よりも今は嬉しい。
自分の頭の中でまた繰り返して、気持ちを噛み締めた。

「うん、…凄い嬉しいや。昔はね、ちゃんが僕の中で主人公だったから」
「…主人公??」
「うん、そう」

映画のような物語では、主人公は必要不可欠だ。栗田の中では自分の人生なのにが主人公だった。そのの足を引っ張るような、そんな絡み役の位置が自分だと思っていた。実際そんな感じで小学生時代を過ごした。
いつも笑顔だった。栗田も笑顔は多いが、それと共に泣く回数も多かった。
は、いつも笑っていた。

「どんなに怒られても、直ぐ後で笑ってるんだ。転んでも泣かないの。僕に向かって大丈夫って笑ってくれる子だった」
「あー、そんな感じするな」

いつからかその笑顔を見れば安心する自分も居た。何がどう大丈夫なのか解らないけれど、に大丈夫と言われれば大丈夫だと思った。
の言葉を借りるなら、は栗田のヒーローだった。
言葉一つで安心させてくれる、ドベの自分に笑いかけてくれる彼女が、ヒーローだ。

「僕にも笑ってれば良いこと有るから、出来る限り笑ってなさいって言ったの。ちゃんはお母さんから言われたみたいなんだけどね。僕には出来ないから、やってるちゃんを凄いと思った。どんな時もあんな風にふんわり笑ってた。…クラスの子から、呼び出されてた時は違ったんだけど」

最後の言葉を聞いて、セナ達はの言葉を思い出した。
このメンバーで誰よりも大きな体躯が、少しだけ小さくなる。目線を落として、体を縮めて、栗田は昔を思い出す。
先生に怒られても、転んでも、最後には笑っていたちゃん。
そのちゃんが、我慢して、堪えてるように見えたから。

「呼び出したのは女の子だったんだけどね…何か、あんまり雰囲気良さそうじゃなかったから、…つい割り込んじゃってね」
「やー!それはクリタン格好良いよ!」
「うーん、そうかな」

後から考えれば、自分なんかが助けなくても、ならどうにかしていたかもしれない。それまで自分をいじめっ子から助けてくれてたのだから。
でも、自分の長所に気付いたのはその時だった。
を庇うことが出来るこの大きな身体。では手に入らないこの身体。を守ることが出来たこの身体に、栗田はその時初めて自信を持てた。
自分の体は、それなりに凶器であると解っていたから、誰かを守ることが出来てとても嬉しかった。

「でもそっかあ…ちゃんが僕をヒーロー扱いしてくれたの、その時かあ…。ちゃんと僕って似てるなあ」
「…あ?何処が?」

栗田が耳を疑うようなことを言ったので、コータローが口悪く聞き返した。
何処が、どう似てる?

ちゃんが、物語の主人公みたいなヒーローじゃなくて、女の子なんだなって気付いたの、その時だったから」
「………」

あれ、これやっぱり恋バナだったのか?と全員思った。鈴音だけが目をキラキラ輝かせていた。
栗田からこんな言葉や話を聞けるとは誰が思っていただろうか。

「あのいつも笑ってるちゃんが泣いたの、その時だったんだ」

何かをされて泣いたわけではなかった。庇った栗田のために泣いてくれた。
自分の不甲斐なさや、栗田が傷ついただろうと思って、思わず栗田の前では泣いたのだ。先生の前でも、友達の前でも、幼馴染の自分の前でも泣くことなんて無かったあのが、そんな事で泣いたのだ。栗田にしたら大事件だった。がいじめられたとか関係無くなった。

「それからちゃんがただの我慢強いだけの女の子なの、気付いたんだ」

それから栗田はを守ることを覚えていった。中学では私立に行ったから、いつも守ることは出来なくなったけれど、アメフトに生かされるようになった。
自分の体をそうやって使えば良いということは、が教えてくれたようなものだ。誰かを守る力。そのお陰でアメフトのラインマンとして自信を持てるようにもなったし、高校では更にそれを昇華できたような気がする。
そう考えると、やはりは栗田にとって主人公のような存在だ。

「はああ…クリタン格好良い…」
「そ、そうかな?」
「栗田さんがラインマンとしてそんなに強いの、さんのお陰なんですね」
「元を辿ればそうなるかなあ…」

のお陰で、怒るようなことも無かった。いつもと一緒に笑っていたからだ。栗田は相変わらず、泣き虫だったけれど。

「…お似合いカップルじゃねーか」
「コータロー、見苦しいぞ」
「でもちょっと羨ましくなりますね」

陸の言葉に、雲水は確かにとそこは納得した。アメフト一筋だし、彼女が出来ればそれはそれで面倒くさいけれど、この二人を見てるとちょっとその関係が羨ましい。
互いが互いを必要として、支えあって、大事にしている。いつか自分にもそんな人が出来るのかなあと、メンバーの誰かが人知れず思った。

「じゃあとりあえず、一番格好良いって言われたアメフトの練習しないといけませんね」
「うん!」

セナの言葉に大きく頷いて、栗田はヘルメットを被った。



09/10/16
君は僕のヒーロー!
凄いぶっちゃけたことを言うと、デブと言われるようなキャラに目覚めたのは栗田が初めてです。
因みに、炎馬のメンバーは栗田とヒロイン付き合ってると思ってますが、付き合うとかそんな甲斐性栗田には有りません。
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