雨が降っていた。



日本語の擬音にするとシトシトだろうかと、どうでも良いことをは考えていた。英語には無いその音は日本ならではの表現の仕方で、日本人の感性なら色々伝わりやすいものだと思っている。
雨が、降っている。

生活する上で欠かせない自然の恵みだけれど、凄く好きになれるものではなかった。スカートだろうとズボンだろうと足は濡れるし、傘を差しても風が強ければ全く持って意味が無い。鞄が濡れるのも許せなかった。とりあえず自分や鞄が濡れるのが嫌だった。あまり好き好んで外には出ない。買い物もちょっと我慢するくらいだ。
湿気で机がベタベタする時なんかは最悪以外の何物でもないと思う。日本では床まで湿気のせいで濡れてたときは、転びそうになって大変だった。
独りで部屋の中でジッとしていると、色々考えることが多い。ナーバスなのだろうか。それとも寂しいのだろうか。

飲み物を淹れる為に、お湯を沸かし始める。Mr.ドンがこの間くれた紅茶を淹れてみよう。ティーポットを出そうとして、家のチャイムが鳴った。

「ハーイ?」

インターフォンの受話器を取って、声を掛ける。夜更けと言うわけではないが、もう日が沈んでいるこの時間に誰が何の用だろうか?
一拍二拍、声を掛けても何の反応も無かった。音声のみ伝えるそのインターフォンは、雨の音しか拾えなかった。
悪戯か?そう思った矢先に、男の声が届いた。

「…

驚いて、声が裏返る。

「タタンカ!?え、どうしたの?」

何で行き成りタタンカ?と言うか、彼には合鍵を渡しているはずなのに。
何か有ったんだろうと思って、はタタンカが何かを言う前に「ちょっと待ってて」そう言って受話器を置いた。こういうとき家が狭くて助かる。直ぐに玄関に着いて、ドアを勢い良く開けた。
雨は降り続けていた。

「タタンカ!ちょっと濡れてるじゃない!」
「…悪イ」
「とりあえず入って」

は急いでタタンカを家に上げた。傘も差さずに、何をやっているんだ彼は。
バッドなら水が滴っている方が格好良いと言って傘を差さないくらいはしそうだが、タタンカはそんなキャラじゃない。アメフトで何か有っただろうか?ドンやペンタグラムと何か有ったのだろうか?どちらにしろ、タオルを出すのが先決だった。
バスタオルを引っつかんで、戻ってくる。
タタンカは玄関先に立ったまま、動かないし何か言うわけでもない。

何が有ったのか聞けば、彼は教えてくれるだろうか。

多分教えてくれるだろうけど、今はまだその質問をするべきではないと、何故だか思った。女の勘だろうか。
とりあえずタオルを渡して、バスルームに突っ込もうと考えた。
タタンカ、そう声を掛けて、タオルを渡そうとする。

「…ごめん」
「…何が?」
「玄関、濡らしタ」
「玄関だから大丈夫だよ」
「行き成りごめん」
「良いよ一人で暇だったから」

しゃがんで、と言うと彼は素直に腰を曲げた。頭にバスタオルをかけて、軽く拭いてやる。

「とりあえずシャワー浴びる?」
「…良イ」
「風邪引かない?」
「引かなイ」
「そう。ならリビングで拭こう」

あー多分傍に居てほしいんだろうなあと、思った。行き成り家に来たのもそういうことだろう。でかい図体して可愛い辺りが所謂ギャップ萌えというやつだろうか。
タタンカの前に座りながら頭を拭いてあげようとしたら、タタンカが自分でやると言ったので手を離した。元気が全く無いわけではないらしい。別にもう少し頼ってくれても良いのになあとも、思った。

「…
「なあに」
「…ごめん」
「良いよ。話したくなければ話さなくて良いし」
「うん、…ごめん」
「謝るくらいなら元気になってほしいな」
「ごめ……解っタ」
「うん」

髪を解いて、濡れているそれを拭きながらタタンカは苦笑した。身体は冷たいけれど、温かかった。
は温かい人だと、心底思った。
ある程度拭き終わって、タオルを首に掛けた。びしょ濡れというわけではないので、頭と服を拭くだけで助かった。
を見て、タタンカは微笑んだ。恋人が居て良かったと思ったのは、この時が初めてだ。

、…ありがとう」
「どういたしましてー」

タタンカが雨に濡れながらも来てくれたのが自分の所で、嬉しいなあとは思った。雨の日は洗濯物も干せないしあまり外にも出れなくて憂鬱だけれど、今日ばかりはそう言ってられない。これからどうやって今日を過ごそうか。とりあえず夕食は二人分で、その前に一緒にシャワーを浴びるのも良いかもしれない。
雨はまだ降っているけれど、はもう音も気にならなくなった。



09/12/13
何かタタンカで書きたいなーと思って出たネタ。
黒髪長髪の彼が、雨に濡れて弱ってるの何か可愛くないですか。
そんでもってタオル首元とか頭に掛けて、弱弱しく微笑むんですよ。可愛くないですか。
落ち込んでる理由はアメリカにありがちな黒人ネタじゃないでしょうか。
この後仲良くお風呂に入って夕食一緒に作って食べて、狭いけど二人並んでベッドで寝ました。
温かいと思って眠りに付けば良いと思います。

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