困るかな、ああでも、すごく困らせたい

20万打御礼企画

新しい表情が見たかった。



大和は最近気になっている女子がいる。これを言うと花梨は少々うるさくなるだろうし、部活の仲間たちも要らぬ詮索をしてくるだろうしで別に言う必要もないかと思っている。鷹になら言っても良いかもしれないが、ただ言って終わるだけだろう。
自分自身の好みが大和は解っている分、今回クラスの女子を好きになったのは中々意外だった。正直まさか、と自分で思ったのである。年上ばかりだったので本当に意外だった。
年上の包容力とか理解の良さではなく、今回は本当に、ただ純粋な興味や本能が勝った。だからこれはきっと本物。そう確信している。自分の意思も本能も正しいと大和は解っていた。

は普通の女子高校生だと、大和は評価している。テレビで見るような派手なイメージもなく、私立の女子高校生という印象が強い。静かで騒がないかと思えば、友達と大声で話すこともある。お菓子は美味しそうに食べるし、学食が好きなものの日ならそれをわざわざ笑顔で友人に報告していたりする。
意外と見ていれば、表情が色々ある。可愛いと言うのかもしれない。綺麗とは言い難いが、愛嬌はある。
そこまで考えると、大和は何となく彼女が好きだなと思う。



大和は年上でも年下でも、女子でも男子でも関係なく名前を呼び捨てる。アメリカでのくせが抜けないのもあるが、そちらのほうが何となく好みなのも強い。名字だけだと何だか他人行儀が強すぎて嫌な感じがしたからだ。
好きな女子ならば、余計そう思う。

「大和。どうしたの」

も大和のことを呼び捨てにしていた。苗字だけれど。まだクラスのただの男子生徒という扱いでしかない。
ただ笑って会話をしてくれるから良いかなと辺りはつけてる。あからさまに塞ぎ込まれたほうがまだ解りやすくて良いのかもしれないが。脈があるとは言いにくいが、全くないとも思えなかった。なかったとしても、大和の場合できるまでどうにかするだけだ。

「日直、相方が部活だからって変わったんだ」
「はっ?何も聞いてないんですけどー!」
「悪いって言ってたよ。とりあえず埋め合わせで俺が入るから、許してやってくれよ」
「一人にさせたらマジで締めてたわー。大和こそ部活あるのに良いの?」
「ああ、今日はオフの日だから」

部活がオフということ以外は丸っきり嘘だった。何せ頼んで日直を変わってもらって今ここに大和はいる。ただ面倒くさい日直をやらずに部活に行けるのは有り難いのか、相方のクラスメイトは笑顔で譲ってくれた。(少々下衆な顔もしていた気もするけれど、そこは見ないことにした)
まさか部活がない日とが日直の日が重なるとは思ってもみなかった。気づいたときに、こんなことを思いついた。見えているチャンスを逃すことなんてしたくない。負け犬なんて言葉は付けられたくも、自分で付けたくもない。勝ちに行くのが信条だった。

「大和は何がしたい?」
「適材適所だろう?俺が黒板」
「助かるありがとう」

日誌と黒板の清掃、花瓶の水やりや次の時間割の先生へとプリントを貰いに行くだの色々あるけれど、放課後にやれることなんて少ない。身長を考えれば大和が黒板をやるのが妥当だろう。を汚すのも悪い。
さっさと黒板を消し、黒板消しを綺麗にして終わらせればの目の前の席へと当然のように座った。まだ日誌を書き途中のは、目線をくれずに言葉だけ投げかける。

「ありがと」
「Not at all」
「のっと…?」

別に難しい単語でもないのに、は疑問をアリアリと顔に出しながら大和を見る。
その顔が何故だか笑えてしまって、大和は少し意地悪を言いたくなる。

って英語の成績悪いのかい?」
「ひどっ」
「No problemなら?」
「あ、あ~…そこってYou are welcomeじゃないの?」
「言いまわしが色々あるんだよ。ニュアンスの違い」
「うわー」

英語はできなくて良いやーなんて軽口を叩きながらは目線を日誌に戻した。折角こっちを向いてくれたというのに、少し残念だ。が下を向いてしまったので大和もの手元を覗き込む。
今日の時間割や、やった内容をの文字で読み返しながらそういえば数学の公式は復習しておかないと不味いなと、大和は今日の授業を思い返した。別に苦手でもないが、公式を忘れては意味がない。覚えておけば何とかなるから数学は意外と楽だ。英語に関しては復習も予習も要らないだろう。その場で当てられても答えられる自信がある。喋られるだけではなく、文法もあっちにいる間に結構しっかりと詰め込んだ。おかげで日本の高校レベルなら辞書も要らない。教師にセンター試験も難関大学の英語も大丈夫だろうと言わしめた程度に実力はあるし、自信もある。
ただその分国語や漢文・古文がすこぶる苦手で意味が解らなかった。日本史も中々漢字が覚えられない。英語の分の予習復習をここにつぎ込むしかなかった。部活だけしていれば良いわけでもないので、大和は授業も結構しっかりとこなす。流石に好きな子が同じクラスなので、あまり格好悪いマネはしたくもない。
そんなことを考えながら、手元を見たり下を向いているを見たりと意外とせわしない。こういうときあまり背が大きすぎるのは良くない。身長差がありすぎて彼女の顔があまり見えない。これだけは頂けない。ただ必死にこちらの顔を見ようとしているときは可愛いので±0でもある。アメフトに関しては凄いストイックになれるが、こういうところは意外と普通の高校生を送っているのではないかと大和は少しだけ笑った。アメリカ留学もしてこの身長体格で、天下の帝黒学園で№1とまで言われる自分自身が、一般人とは決して思ってはいない。けれどもこういうところは普通の生活を送れるのが何だか笑えるのだ。

今の、目を伏せている表情は好きだと思った。友人と笑って話しているのも、好きな甘いお菓子を授業の合間に幸せそうに食べているときも、可愛いとは思うけれど。
教師にいきなり当てられて慌てて困っている様も、体育の苦手種目を嫌な顔で見ているのも、スタイルの良い友人を羨ましそうに見ている目も、全部彼女の顔は生き生きとしていて大和は好きだった。他にも好きな所は多々あるが、まあ直ぐに挙げるとすればその表情だろうと思う。

ある時から少しだけ欲が出てくる。自分が関わったことでどんな表情を見せてくれるのか、気になるようになった。
どんな顔をするのか解らない。笑顔になるのか、泣くのか、眉を顰めるのか。どれでも良いけれど、新しい表情が見れるのならやって構わないと思う。


「んー?」

自分と彼女はまだまだただのクラスメイトだ。いきなり今から言うことを伝えれば、彼女は面白いくらいにうろたえるだろう。それが解っていて言いたかった。新しい表情も見たい。彼女に自分を見てほしい。彼女の隣が欲しい。自分のワガママだったけれど、好きになったのだからしょうがない。

「好きだよ」

陽が落ち始めて暗くなってきている教室で、彼女の俯いた顔は赤く染まっている。ゆっくりと顔を上げて目が合い、また大和ははっきりと呟いた。

「君が、好きだよ。

大和はの顔を見ながら微笑んだ。
どちらに転んでも、自分ならどうにかできる自信も、手腕もあるからだ。ただ彼女の新しい表情が見たい。ただ今は、自分のただのワガママで彼女を振り回す。

さあ、どうにでもなってしまえ。



13/07/28
群青三メートル手前様から
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11. 困るかな、ああでも、すごく困らせたい
大和でリク下さった雨さんありがとうございました。
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