もしもの話

初めまして?

「…まさか、本当に生き返らしちゃうとは」

ブルマのそんな一言が、溜息と共に紡がれた。



「で、これからどうするのよ、孫君」
「んー?」

目の前に有るご馳走に釘付けな悟空は、ブルマの質問に気も漫ろだった。
その対応には憤りしか出てこない。

「ちょっと!聞いてるのアンタ!」
「イタッ!痛ぇなブルマ。何だよ」
「だーかーらー!これからどうするのか聞いてるのよ!」
「これからー?」

一応ブルマの顔は見ているが気が散っているのは見ていて解った。
本当にもう、この食欲無限の化け物は。

「どうやって生活していく気なの?」
「一緒に暮らせば良いじゃねぇかー」
「出来ると思ってるのアンタ!」

こっちが用意した食事の山を遠慮なくがっつく三人を見ながら、ブルマは言う。

「あの家に七人も住めるわけないでしょう!?」
「あー、そっか」
「考えてなかったのアンタ!」

信じられないと、ヒステリック気味に叫ぶ。うるさくて敵わないが、こればかりは回りに居る人物達も同意した。

「第一、…殺しをしないとも言えないでしょう?」

恐る恐る、心なしか小声で言うブルマに、食事をしている途中の一人が顔を上げた。

「なーに、言ってんの?王子やカカロットが出来てアタシ等に出来ないわけないじゃん」

は悪びれも無く、あっけらかんと言い放つ。
手には骨付き肉を持ちながら。

「王子が殺しもしないで所帯まで持っちゃって、トレーニングに明け暮れてるわけでしょう?王子に出来てアタシ等が出来ないわけ無いって」

王子ことべジータは何故か馬鹿にされているような気がした。
されているのではなく、本人は結構馬鹿にしていたりする。

「でも、」
「だってさー、戦おうと思ったら王子もカカロットも、その息子達も居るんでしょう?なら大丈夫だって。まあこの馬鹿二人が暴れるようならアタシが止めるって」
「馬鹿二人ってどういうことだ
「馬鹿じゃん。戦闘馬鹿」
「馬鹿はラディッツだけで十分だ」
「何だと親父!」
「やる気かお前」

因みに食事をしているこの三人は会話中でも手からは食べ物を離さなかった。
そんな所に悟飯は少し感心した。流石だ。

「外で戦れお前等。その間に食事はアタシが終わらしとくから」
「ふざけんな」
「いや至って大真面目。ほら、後はアタシに任せて遠慮なく暴れてきなよ。警察とか言うのに捕まるかもね」
「そんなもんに捕まるか」
「っていうかさっき暴れないって言わなかったかお袋」
「暴れるんじゃなくて殺しはしないって言ったんだけど」
「…ああ…」
「第一暴れるのアタシじゃなくてアンタ達」
「…いや、俺やらねえし」
「男ならやれよコラ」
「や、その前に食う」
「ちっ」

家族の会話に全く付いていけない地球人は、呆然として見ていた。
…コレが、悟空の家族?
何か違う気がした。

「つーか地球の食事って結構美味しいのね。何か見た目凝ってるし」
「見た目なんかどうでも良いだろ。腹に入れば一緒だ」

会話しながらでも食事のスピードが落ちない三人。
凄いと周りは思った。

「…で、何だっけ?えーと、王子の奥さん」
「え?…あ、ああ」

呼ばれて我に返ったブルマは、元の話を思い出した。

「そうよ!孫君、アンタ家とか食事とかどうするの!?」
「どーにかなるだろー」
「なるわけないでしょう!!」
「食事くらいならアタシ作れるけどね」

ブルマと悟空の会話に、は割り込む。
その言葉を聞いた周りは音も無く驚いた。

…え、サイヤ人って、食事作るとかそんなこと出来るんだ?

「で、出来るの貴方!?」
「出来るよー。生前一人で作ったりしてたもの。食堂とかに自分の好きなもの無いときとかね」
「う、嘘!」
「嘘吐いてどうすんの。ねーバダ」
「あ?…ああ、お前かなり変わり者だったよな」
「あっはっはー、殴るぞコラ」
「してみせろ」
「あっはっはー、くっそう」

力の差が解ってるは笑いながら悔しがった。
何か、変な家族だなあ、この人達。
でも確かに変だからこそ悟空と血が繋がっているのかもしれないとも失礼なことを思った。
出会って数十分で既に変な人の烙印を三人は押されていた。

「問題は家かー」
「あっ、そう、そうよ!家!家とかどうするの!?」
「建てる?」

大真面目な顔では言い放つ。
…この人家も建てられるの?

「お前金とか持ってないだろ」
「あー、そっか」
「あ、何だ。よ、良かった…」
「何が?」
「え?いいいいいいえ、何でもないわ」
「?」

大盛りのスパゲッティをたいらげたは次の皿に手を出した。
あまり考えたくはないが、この食事代を出しているブルマは今日の出費について涙した。
何故利益も無いのにこんなこと…。

「まあ別に寝床無いくらいどうでも良いけどね」
「まあな」
「げ、マジかよ」
「無くても生きていける」

嫌そうな顔をしたのはラディッツのみだった。
とバーダックは野宿でも構わないらしい。

「あー!そうだ!ブルマ、お前ぇが家貸してくれよ!」
「な、悟空さ、これ以上迷惑かけるつもりけえ!」
「良いじゃねえかー、家くらい」
「家くらいってアンタ…」

名案を思いついたとばかりに悟空は明るく言う。
ブルマは渋い顔をした。
確かにカプセルの家をあげるのは簡単だが…。
だが天下のカプセルコーポレーションの社長がこんなことで渋るのも…。
人徳を見せるか、利益を取るか、悩み所だった。

「金なら後から稼ぐから返せるとは思うけどね」
「え?」
「どうやって稼ぐ気だお前」
「どっかにアンダーグラウンドとか有るでしょ」
「ああ」

確かに違法のバトルマッチを賭けている所に行けば手っ取り早く稼げる。

「…成る程」
「え、何、王子の奥さんこの話乗る?」
「ちょっと!私にはブルマって名前が有るの!」

突っ込み所が違うブルマには笑う。

「うん、じゃあブルマ、アンタこんな稼ぎ方しか出来ないアタシ達の話に乗る?」
「…良いわ。乗ってあげる。稼いでちゃんと返してくれるなら家でも何でも貸してあげるわよ」
「おー、太っ腹」

パチパチと拍手を送る。
これで家の心配は無くなった。

「じゃあ問題は何処で稼ぐかね」
「…ブルマとか言ったかお前」
「ええ」

コイツ(バーダック)はさっき言ったこともう忘れてるのかとブルマは内心思った。
思っても口には出来ないが。

「そういう場所くらい、知ってるだろ。話に乗ってきたってことは」
「ええ」

不適な笑みを漏らしながらブルマは頷く。
伊達に社長はやってない。綺麗事も汚れた事も何でも御座れだ。

「ただし、殺しは無いクリーンな場所よ」
「へえ、そんなの有るんだ」
「殺しが有るのは足も付き易いし、最近潰されてきてるからね」

ついこの間も警察に取り押さえられていたのをブルマは思い出す。
殺しが無いもので、ひっそり賭け事をしている場所は警察もそこまで踏み入ってこなかった。
ブルマはそこに目を付ける。

「じゃあそこに決まりか。そこで稼いでお金返すよ」
「まあそれなら…」

このサイヤ人の強さならそこらの人間には負けないだろう。
多分この国の金事情も知らないだろうか、ふんだくる事も出来そうだし。
ここら辺は昔とそこまで変わっていないブルマは結論を出す。

「良いわ、じゃあ家と家具を貸してあげる。その代わりしっかり稼いで返してもらうわよ」

今日の食事代もね、と付け足す。

「よっしゃ、じゃあ心配事は一つ減ったと」

ビールを飲み干し、豪快に笑う。
そろそろ三人の食事は終わりらしい。

「とりあえず、ちゃんと自己紹介した方が良いのかしら?」
「え、あ、ああ…」

そういえば名前もろくに言ってないのだ。
悟空がこの三人を生き返らし、そのままこの流れだったのを思い出した。

「アタシはね。これはもう解るか。これが夫のバーダック。コレがうちの長男。コイツとはもう会ってるのよね?」
「…ええ、一応」

ラディッツは居づらいのかそっぽを向く。まあ弟に殺されたのを生き返らされたのでは何とも言えない。

「サイヤ人の下級兵士よ。で、アタシとバダはフリーザに殺されたのね」

惑星べジータと一緒に。
そう言ってバーダックと目を合わせる。
バーダックは少し顔を険しくした。

「まあこんな所?聞きたいことが有ったら聞いてよ」
「ハイッ!」
「あいよ元気な王子の息子」

勢い良く手を上げるトランクスには指名する。
地獄で見ていたせいか、名前は解らずとも誰が誰かは解るらしい。

「なあ、おばさ…さん?は、悟天のおばあちゃんなのか?」
「ああ…、そういうことになるねえ。実感ないけど」
「うわあ」

から見たら可愛らしく驚くトランクスには笑う。
もっとも、彼女はどんなときでも笑っていることが多い。

「そんな訳だよ孫一家」
「お、お義母さんっ、よろしくお願いしますだ!」
「あー、どーも」

こんな女が息子の嫁なのかと思う。
まあそれも良いのかもしれない。
まだ困惑している奴も居るが、それを言うなら当事者の自分達が一番驚いているのだ。
またこの世に生を受ける。
今度は最後まで幸せに生きられるだろうかと、はぼんやり思った。
そうしてさっきまでとは別の笑みを見せる。

「まあとりあえずはヨロシク、かな?」

家族と暮らすことが出来るなら別にどうでも良いかと思った。
サイヤ人でも変人とされていたは、どちらかと言うと地球人よりの考え方で、紛れもない悟空の母親だった。



07/03/24
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