空を見る。
外に出て顔を上げて、どこまでも広がっている夜空を見上げた。ホグワーツは城の灯り以外余計な物が周囲にないので、この時代でも星が綺麗に見える。全部が全部解るわけではないが、季節・時期・方角が今の時点で解っているので、多分あれが授業で習った星座で、その横が…と自分の記憶を辿る。
別に星が好きなわけではない。星座が好きなわけでもない。ただ夜空を見るのは好きだ。星空を眺めるのが好きだ。こんな風に月明かりの綺麗な夜が好きだった。ときおり一人きりになりたいとき、よく外に出てこうやって星を見る。昼とは全く違うこの空を見上げて、無為に時を過ごす。それが無駄なことだとは思っておらず、ただただ一人で何かを考えたり、時には何も考えずにこうやって過ごしていた。

切欠は、好いた人が一等星の名前だったからだ。
授業でもやったが、先に本人が教えてくれた。苦手で唸っていたら解りやすいところから教えてくれたのだが、その解りやすいのが彼の名前だった。
面白くて別名も調べてしまう。一等星、おおいぬ座、天浪星。何とも格好良いものである。羨ましいかぎりだった。

一番明るい星なので、いつでも見つけることができた。彼らしいとは思う。
空を見るのも、星を見るのも好きだった。遠くて絶対に手に入らないのに、いくらでも見ていることができる。シリウス・ブラックその人ままで笑えてしまう。あの人も明るくて、輝いている人だ。いつでも目に入るのに、手に入らない人だ。
見ているだけで満足である。恋い焦がれているだけで楽しい。


「う、わ……ビックリした」
「そりゃこっちのセリフだ」

何してんだこんな時間に。そう続けられた。
輝かしい名前の人だった。シリウスは許可も取らずにの隣に座ってくる。

「もう寒くなってきたのに何で外で……、……いや準備万全かよ」
「そりゃ何も考えずに外に出ないよ」

ローブだけじゃなくブランケットも持参しているを見て、シリウスは苦笑していた。もっと本格的に天体観測をするなら飲み物や着るものも色々用意するのだが、身体が冷えたら帰るつもりだったのでとりあえずブランケットのみだ。

「お前星見るの好きだなあ」
「――……、うん」

夜空の星を見るのが好きになったのは、シリウスを好きになってからだ。ここまで熱心に見るなんて以前はしなかった。
ただ明るく輝いている姿を見ているのは、以前から好きだった。
それがシリウス本人だったり、星だったりするだけだ。

「好きだよ、見ているだけでも、何か楽しい」
「ふーん」

空のシリウスを見ながらだったので、隣にいるシリウスがどんな顔をしているのかは全く解らなかった。こんな至近距離で顔をマジマジ見れる度胸もなく、隣にいられるのも心臓が早くなる。もう何年も一緒の寮にいるのに、慣れることがなかった。
見ているだけで楽しい。だが近づかれると、困ってしまう。空の星のように、遠くから見ているだけで楽しいのだ。シリウスはその長い足を使って近づいて来るから厄介だった。いや嫌われるよりもいいのだが。
好きな人だけれど、別に近づきたいわけではない。アイドルみたいなものかもしれない。でも見えなくなるほど遠くなるのも嫌だった。

「俺の星なら、すぐ見れるだろ」
「そりゃあねえ。いつも解りやすいし、光ってて綺麗だよね」
「……この時期だと、授業でやったやつも見えるな」
「うん。あ、ねえあっちのアレは?」
「いや肉眼じゃ解んねえよ流石に。道具持って来ないとお前がどれのこと言ってるのかも解んねえ」
「えー」

当たり前のことを言われたが、シリウスなら何となくできるのではと思ってしまった。無理なものは無理らしい。

「じゃあ寒くなってきたしお終い」
「おお」

風邪引くなよ、と続けられた。シリウスのほうが薄着なのに何を言っているのかと、は何とも言えない顔をする。

はいつもここ来てんの?」
「気が向いたときに」
「ふーん」

何だか今日のシリウスは歯切れが悪い気がした。寒いからだろうか。

「あっシリウスのお気に入りの場所だった!?ごめん別の場所探すから」
「は?いや別にそんなわけじゃねえよ。ここ来んの初めてだし気にしなくていい」
「そうなの?」

じゃあこれからも気が向いたときに来よう。教師に見つかりにくくて便利なのだ。

「……こそ、デートとかじゃ、ねえの」
「ええ、それはない……。ていうかそれシリウスと一緒にいたら駄目なやつじゃん……」
「そら、……そうだな」

何故かシリウスは歩き出そうとしない。はシリウスが動かないので、寮に戻りにくかった。

「――俺も、星見たくなったら来るかも」
「えー、教師は連れて来ないでね」
「そんなヘマするか」

隣にいたときと違ってしっかりとシリウスが笑った顔を見てしまって目が潰れるかとは思った。夜中で良かった。昼間に見ていたら神々しくて目を確実にやられていた。
やっぱり遠くから輝いているのを見ているのがいいのかもしれない。近くで見るには色々大変だとは感じた。顔がとてもいいのだ。笑顔なんて殺人兵器ではないだろうか。
シリウスがやっと動き出したので、も歩き始める。お風呂にはもう入ってしまっていたので、寮に戻ったら何か温まるものでも飲もうか考えるが、だいぶ時間が遅いので、このまま寝てしまうほうがいいかもしれない。
教師に見つからないように移動をしないといけないので、帰り道はただひたすらに静かだった。無事に寮に着いて息を吐く。

「じゃあ、また明日ねシリウス」
「ああ、おやすみ」

しっかりとこちらの目を見ながら挨拶をする彼は、やはり星の名を戴く人だなあと、は思ってベッドに潜った。



星を見るひと

それから毎夜、彼がその場所に来ていることを、一等星だけが知っている。



20/11/11
シリウス・ブラックって名前がとても好きです。
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