誇らしい片想い

「おめえあの男と恋仲じゃなかったのか」
「…そう見えた?」

桜田大老は相変わらず胸や頭をぼりぼり掻いている。風呂ぐらい入れば良いのにと思うが、あまりそういうことは面と向かって言うことができない。

「見えたと言うよりも、互いに好き合ってる感じはしたな」
「あらそう」

その言葉に何だか拍子抜けだ。自分の勘が外れたか?桜田は片手で頬杖をついた。最後の最期、あの綺麗な男を行かせたこの女。通じ合ってると思っていたが、何だか違うようだ。
それでも、この女はあの男を愛していたのだろうと、聞いてもいないのに桜田は確信していた。

「最後まで片想いだったわよ」
「へえ」
「最後の最期まで、伝えることはできなかったから」
「……」

そりゃ、そうだ。あの男は最期城の地下に行って帰ってこなかった。今もまだ、埋まったままだろう。復興作業はそこまで進んでいない。もしかしたら、あのまま風化させるかもしれないと、桜田は密かに思っていたりする。
見た感じ、想い合っていたように思える。つまり、片想い同士か。何とも切ない。
桜田はそれ以上は何の感情も湧かなかった。

「そりゃあ、切ない話だこって」
「そうねえ。でも、誇らしい」
「…誇りが?あるのか?」
「もちろん」

ただの片想いに、どんな誇りがあるのだろうか。一生愛していくつもりか。一生忘れないつもりだからか。ただ死んだ人間に対して片想いしてることが誇らしいだなんて、桜田はあまり理解できなかった。目前の女と、死んだ男が不憫なのは、解っているのだが。

「誇らしい片想いだわ。今でも泣けるけれど、この気持ちは今まで生きてきた中で始めてのものだもの。あの人を好きになって、こんなにも誇らしい」

巡り逢えて良かったと、笑った。
そう言われてもやっぱり桜田にはよく解らなかった。よくそんなことが言えるなと、感心するしかない。しかしそこまで想えるのも少しだけ羨ましい。

「片想いが誇らしいだなんて、切ないにも程があるんじゃねえの?」
「そうかもね。でも、それでも良いんじゃないかしら。相手はあの揚羽だもの」
「…ちがいねえ」

誇り高かったあの男に片想いしてる彼女の気持ちは、確かに誇らしいものなのだろう。桜田は最後に頭を一掻きして、席を立った。



10/08/25
誇らしく思えるほどの片想いは、どっちかって言うと女性側からかなーと。
シリーズとかに全く関係無い話です。
誇りという言葉で連想するのは、揚羽しか居なかったりします。
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