「クレイの好みってどんな人?」
「…え、」

街で買い出し中、と一緒に歩いているといきなりそんなことを言われた。ランドはいつもの如くいなかった。自分の分は自分で買わせようと二人で話し合ってランドの分だけ何も買ってはいない。
荷物を持ちながら、の言った言葉が意外すぎて気の抜けた返事をしてしまった。

「いや、モテるのにそこまで女っ気がないと言うか」

そこでちょっとだけ舞い上がってしまっていたクレイは急激に落ち込んだ。…ああ、そういうこと。
もそう思っているのか。ちょっと心外だ。自分だってきちんと興味関心くらいはある。そう、今はこの目の前の彼女に好かれたいと思っている。だからこそこうやって時間を作って一緒に居るのだが、彼女は全くもってして気付いていない。
ちょっとだけ気付かなくても良いと、臆病になっている自分がいることはクレイも解っていた。でも今回は正直にガッカリした。

「……デュアンもそうだったけど、別に女の子に興味がないわけじゃないよ(ちょっと期待して損した)」
「ふーん?もったいないね」
「…別に…」

知らない人から求愛されるよりも、目の前の彼女に自分を知ってほしい。そう思うのは片想いから来るワガママだろうか。
いやいや、そんなことありえない。自分の恋を自分自身が応援したって良いじゃないか。
…期待できないだろうか。は冒険者の見本のような人だ。経験値大好き。冒険大好き。武器を振り回すとスカッとするらしい。そんなわけで自分よりも年下だというのに半端ないほどのレベルだった。何人かの男が引いてるのをちょっと見たことがある。解らないでもない。クエストと武器さえあれば彼女は生きていけるほどだ。どこにも隙がないし入り込めない。
だからこそ外堀から地味に崩していかないといけないのだけれど。

「…こそ好みの人とか、いないの?」

何でもない風に、の顔を見ずに言ってみる。ランドが好みと言われたら、自分はどうしようかと若干不安になった。

「んー。好み…。言いにくいなあ。好きになった人が、好みの人」
「曖昧というか、定説というか」
「うん。だって昔と今では、好み違ってたりするし」
「へえ」

これは、もしかしなくても流されたんではないだろうか。クレイはひっそりと汗をかいた。買い物の荷物を見るように、目を伏せる。
どうしようかと、思う。けれども諦めるつもりはなかった。
もっとこう、自分と真逆の人間のことを言われたら逆に疑うのだけれど。そんなこともないようだ。外堀に足すら付かなかった。

「でも、今好きな人はできなくて良いかなー」
「何で?」

彼女はモンスターに勝ったときやレベルが上がったときとは違う顔で、微笑んだ。
自分の目を見て微笑む彼女に、少しだけ勘違いしてしまいそうになる。続いた言葉のせいで威力は倍以上だった。

「クレイたちと一緒に旅してるのが、今凄い楽しいから」





宿に帰ってクレイは昼の会話を思い出す。ああ、不意打ちだ。

『クレイたちと旅をすることが今一番好きだから、今は好きな人とか、要らない』

そんなこと言われたら、嬉しくなってしまうではないか。クレイは思わず片手で口元を覆った。
何であんな一言でこんな気持ちになっているのか。思春期なんてとっくに過ぎたのにこの様だ。兄たちに見られたら多分指を指されて笑われてしまう。自分だって正直この状況は客観的に見て笑えてしまう。
恋愛に疎いわけでもないけれど、どうしたら良いのか解らない場合ジタバタしてしまうらしい。

舞い上がってる場合でもないけれど、クレイは正直に今嬉しい気持ちでいっぱいだった。
あんなことを言われればまだ可能性はある気がする。好かれてる位置づけなのが解っただけでも今日は収穫があった。
もうちょっとだけ気長に頑張ってみようと、クレイは意気込んだ。



11/08/08
初心なクレイも余裕でいけます。(真顔
ちょっと時間経ってからよく考えたら、これ寧ろ口説かれてるんじゃないかとクレイは思った。
いやでも、今仲間が居る旅が楽しいから好きな人は要らなく、て…?あれ?

そんな感じで頑張れクレイさん。
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