両手広げて待っていて

「…行ってらっしゃい」

クレイの口からはいつもに比べて弱弱しい、覇気のないような声音で言葉が紡がれた。
だけれど今の彼は彼女を送り出すしかない。だからこそ、その言葉くらいしかかけられなかった。今回のクエスト内容や、適材適所ということを考えればクレイがを一人で送り出すほかなかった。

「…別に死にに行くんじゃないんだから」

はクレイの様子を見て苦笑した。中々、クレイはこれでいて心配性だ。ランドやデュアンではこうならないのに、はそこが不思議だった。…自分相手だからということが理由なら、結構嬉しいかもしれない。女なんだからと言われるのは癪だが、この好きな人に女性扱いされるのは気恥ずかしいが嬉しい。幸せだと、素直に思える。…ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、背中はかゆいかもしれないけれど。
は思い切ってクレイに抱きついてみた。優男に思われることも多いが、彼は結構ガッシリした体格である。無駄のない身体というのはクレイの筋肉のことだろう。アーマー越しは冷たくて硬いが、それでも構わずはクレイに抱きついて、しっかりしている彼の身体へと腕を回した。
少し驚いた雰囲気を感じたけれど、の身体にも直ぐさま腕が回ってきた。クレイの腕に抱きしめられるのは結構好きだった。誰かに見られたら恥ずかしいけれども、安心して幸せな気分に浸れる行為ではあった。

「まあ、心配かけるかもしれないけどさ、ちゃんと帰ってくるから」
「…帰ってくるつもりがないなら送り出さないよ」
「ああ、そりゃあそうよね」

クレイの顔は見えないが微妙な顔をしているような気がしては思わず笑ってしまった。
それじゃあ、自分と約束してと、は尚もクレイを抱きしめながら呟いた。

「ちゃーんと、帰ってくるから。帰ってきたら、そのときは、両手大きく広げて、こうやってまた抱きしめて出迎えてよ」

そんなこと、いつでもやってあげるよと、クレイに更に強く抱きしめられては送り出された。



14/04/04
お題:LUCY28
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