英雄色を好む

この人は、何だ、意外と好色だったらしい。

「あの、今日も?」
「え、嫌?」
「嫌ではないけど、意外と言うか」

クレイはもっと淡泊かと思っていたと、本音を告げた。少しばかり目を開いた彼は、なるほどと返す。

「そりゃ旅してるときは自重もするさ。…ランドもいたし、場所もあるし」

君の負担にもなるし。こちらの髪の毛を弄りながらそう話すクレイはとてつもない色気だ。この色気が自分にもあればなあと明後日なことを考える。枕元のランプと月明りしかないので大層暗いのだが、顔が近いので表情は解る。昼間、働いているときとはまた全然違う顔をするこの人は今は自分の旦那の顔しかしていない。それを見るのは今自分ただ一人なのがとてつもない優越感になるのだが、この男が完璧な上に異性にも同性にも色んな意味でモテるので油断ならない。ランドですらライバルになるのだ。困る。神はエコ贔屓が過ぎる。この男に何で二物も三物も与えたのか。相手をする自分が頑張らねばならぬのだ。大事にされているので良いのだが、それでもこの人の隣に立っていられるように努力を絶やさぬようにしなければいけない。

「…嫌なら止めるけど」
「止める気ないくせに何を言ってるんだか」
「……うん、ごめん。でも本気で嫌なら止める」

好色だが優しいのだ。こちらの身体も気遣ってくれるので、だから本気で嫌だと言えない。…気持ちが良いし。この人に求められるのは嫌ではない。嬉しい。だから別に良いのだが、流石に結婚してから毎日なのは意外だった。この人ここまで性欲があったのかと。

「旅してる間は我慢してただけだけど?」
「えっそうなの」
「そうなの」

さっきまで髪の毛を弄っていた手が、今度は腹周りを撫で始めた。会話はしているがクレイ自身顔をこちらの首元に埋めて何度も口を付けてくる。…うん、やはり好色だ。

「…というか、君だって…」
「え」
「……いやまあ、旅してたときと違うからだとは思うけど」
「え?」
「声を出すようになったから」
「え。……あ、あー……」

自覚はあるというか、そりゃ、あの、旅してるときの薄い壁の宿屋だったり何だりに比べたら、きちんとした家で誰も居ないのが解ってるこの場所でなら声は出せるというか何というか。
えっだからなのかこの人がこんなに盛ってるのは。

そこは聴けず終いで結局その日も身体を重ね、クレイの部隊が遠征に出るまで続いた。



19/11/11
結婚して国に帰って騎士やってる感じです。
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