「趙雲、さまっ」

舌と舌が絡まるせいでは途切れ途切れにしか言葉を紡げなかった。息も苦しく、羞恥心で死んでしまいそうだった。
趙雲の膝に乗せられて、口付けを繰り返される。荒々しいようで、優しげなその行為が嬉しいようで恥ずかしい。
普段どちらかというとあまりこういうことに関してがっつく、というか、その、積極的ではないと勝手に思っていたのだが、…今日の趙雲は何だか色々凄かった。熱っぽい視線も、腰を抱きしめる腕も、絡める舌も乗せる唇も、全てが熱かった。胸の奥がきゅんと締まるような、苦しいようなその感覚は片想いの間も経験していたことだった。
は自分の腕をかろうじて趙雲の肩に乗せているが、ただ置いているだけにすぎなかった。苦しくなったときに軽く叩いたときだけ趙雲が反応して口を少しだけ離してくれる。抵抗の意味を込めた叩きでは何も反応してくれないのに、そこだけは妙に優しかった。唇を離して酸素を取り込もうとしているのに、十分に吸い込む前にまた同じような行為をしてくるので結局苦しいことには変わりなかった。
頭が働かなくなって、何だかもうこのまま流されても良いんじゃないかと思ってしまう。
生理的な涙が、零れる。
それに気付いた趙雲は唇を離し、の顔をまじまじと覗き込むように首を傾けながら視線を合わせた。苦しくて涙目になるだけでなく、零れてしまったの涙はまだ少しだけ流れていた。それを見て趙雲は、やっと口を開いた。

「…嫌か?」

そう言いながら涙を流す眦に口を寄せた。そのまま舌を出して舐め取る。
そうしてまた顔を覗き込むようにと視線を交わらせた。

「………」

ずるいと、は思う。

「……言わせるんです、か?」

ずるいズルイと思いながら、はそう小声で呟いた。顔は真っ赤で、趙雲の肩に乗せている腕は羞恥で少し震えている。
何てずるい人なんだと、は思う。そんなこと思うはずもないと解っているだろうに、そうやって聞いてくるなんてずるいを通り越して確信犯に違いない。城では誠実真面目、清廉潔白で通っているこの人が、そうやって意地悪なことを言ってくることが何だか夢心地の気分だった。信じられないわけではないが、意外と意地悪な人なのだと、は最近気付いた。

「どうしても、嫌なら止める」

何て、ずるい人なのだろう。
はそう毒づいて再び趙雲から送られる口付けに受け答えた。



12/05/20
Page Top