芽吹く木々に目を細めた春

桃の花が咲いていた。
高い空と相まって、とても桃の花が映える。趙雲は忠義を誓っている劉備と、関羽や張飛たち義兄弟の契りを思い出した。
こんな空と桃の花に囲まれて、誓い合ったのだろうか。
時折あの3人が羨ましく思えた。生まれた場所も、年も違う。性格だってあの通り全く違う。それでも志は一緒で、お互いがお互いのために命を懸けることができる。その関係が、趙雲は羨ましかった。
そのせいか、こういう行動になってしまったのかもしれない。



一番大きく綺麗な桃の木の下で待っていたに声をかける。自分の声で振り返る彼女は、桃の木に囲まれて幻想的だった。

「趙将軍、」
「…
「はい」
「……二人きりなのだし、軍も関係ないのだから、役職で呼ぶのは止めてくれ」

何度言っても彼女はこの癖が抜けなかった。元々趙雲の位が高かったせいもあるが、彼女は恋仲になっても生真面目さを発揮していた。ちょっとだけ、いつまでもそうやって役職名で呼ばれるのは寂しい。
軍の中では絶対に名では呼ばなかった。字なんてもっての外だ。ちょっとどころか結構寂しい。それでもが自分に好意を持っているのが解っていたから我慢していた。

「…す、すみません…」
「まあ城の中では役職名で呼んでいるから、しょうがないけれど」
「……どうにも、将軍と呼ぶのに慣れてしまっていて」
「…別に、名で呼ぶくらい、城の中でも大丈夫だろう」
「っ、い、いえ、そんな、」

字を呼ぶわけでもないのに、どうしてそんな嫌がるのか。やっぱり寂しい。
恋仲になって結構経つが、これだけどうにも頂けなかった。と言うよりも、憤りが出てくる。
だが別に、今日はそういう呼び方に関してをどうこう言うつもりはあまりなかった。どうせ、関係が変わればどうにでもなるものだったからだ。

桃園の誓いに少しばかり憧れていた。忠義を誓う劉備に、志を共にする関羽や張飛たちが結んだソレに、何故だか羨望を寄せた。そこまでの絆に憧れ、それができる繋がりがとても素晴らしいものに見えた。自分には持てないものだとも、何故だか既に諦めていた。
あの3兄弟に願掛けするつもりではなかったが、もしも自分が誓いを立てるとしたらやはり桃の木に囲まれてが良いと、趙雲は思っていた。
それが別に忠義を誓うことでも、志を共にする友との誓いでも、悠久の愛を誓うとしても、桃の花と木々に囲まれている中でが良いと、思っていたのだ。
休みが重なったこの日が、晴れで良かったと思う。そうして、桃の花も咲いているこの時期で良かったと嬉しく思った。
口を噤んでいる趙雲からの言葉を待つように、も黙っていた。やはり城に居るときとは顔つきが違う。だがこの女性らしい顔を知っているのは、多分趙雲一人だけだ。
そんな違う顔つきを見ながら、趙雲は今日の本題を切り出した。

、私は」

忠義を誓うことでも、志を共にする友との誓いでも、悠久の愛を誓うとしても、桃の花と木々に囲まれている中でが良いと、思っていた。
忠義はもう劉備殿に誓っていた。志を共にする仲間たちとは、誓いをしなくても思いは一緒だった。それでも劉備殿たちの誓いに憧れた。
なら、目の前の愛しい人と、最後まで共に生き抜く誓いを、この桃の木の下で。

生涯の愛を呟いたとき、濃い桃の花のように染まったの頬がまた愛おしいと、趙雲は目を細めて見やった。



12/06/19
お題:We love peace! by t-box
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