「お慕いしております」

いつもよりも甘みのある声だったようにも思う。眼差しはいつもの通り優しいものだった。鍛錬のときなどはキツイ眼差しだけれど、普段は端正な顔立ちで優しい眼差しだった。
その両の眼が、をまっすぐに見つめながらそうやって呟いた。

「……」

言われた言葉を頭の中で処理しながら、は目をパチパチと瞬いていた。趙雲は背が高いから目線を合わせるだけで大変だというのに、言われた言葉で更に色々大変だった。
お慕いしております。おしたいしております。…慕って…?

「…私を…?」
「はい」
「私、を」
「はい、お慕いしております」
「おしたい…」
「はい」

ちょっとだけ趙雲が苦笑したけれど、それに気づけるほどは余裕がなかった。目の前の好漢に言われた言葉を処理するだけで精一杯だった。

「いきなりですみません」
「え、あ、いえ、あの」
「困らせるかもとは、思ってはいたんですが」
「いえ、あの、…すいません、ちょっと、意外、で」
「そうですか」
「あの、いえ、…あの」
「返事をいただけるなら、欲しいですが、…無理にとは言いません」
「は、い」
「でも、できれば恋仲になっていただければと、思っております」

そこまで言われては耳まで真っ赤にした。
その様を見て趙雲は思わず目を見張る。もしかしたら、もしかして、という思いが出てくる。

「ぅ、あ、あの、すいません、ええ、と」
「はい」
「あの、…あの…、本当、に、私で、良いんですか…」

そんなことを言われて趙雲は鮮やかに微笑んだ。目線を逸らすことができずにずっと趙雲の顔を見ていたは、直視してしまって目の前がクラリと揺れた気がした。
頭が沸騰しそうで、信じられないくらい熱い。それなのに手先や足先は水の中にいるように冷たい気がした。血が通っているのか通っていないのか。
とりあえず顔に熱が集まって真っ赤なのは解っていた。恥ずかしい。
鮮やかに笑いながら趙雲は、の言葉に対して口を開いた。

「はい。貴方が、が、良いです」
「っ、」

これ以上に真っ赤になれるのだろうかというくらい、は顔が熱かった。こんな好漢にそんなこと言われたら好きでなくても真っ赤になる!と頭の片隅で思った。何が何だか解らなくても変に突っ込みだけは入れられた。
真っ赤になって口を魚のようにぱくぱく動かしているを見ながら、趙雲は更に続けた。

は、私では駄目ですか?」
「…っ!」

何だか興奮しすぎてるせいか、は涙目にもなってきてしまう。目の前の端整な顔立ちの趙雲が歪んだ。
何で泣きそうなのかと自問自答しながら、趙雲から言われた言葉にはきちんと返事をしなければと震える手を握り締めた。

「だ、駄目なんて、ありませ…」
「…本当に?」
「はぃ、…はい、…わたし、も、趙雲様が、良い、です」

最終的に泣き出しながらもはそう言い切って、趙雲の腕に抱かれた。



13/11/11
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