「………」

見られている、と楽進は気づいていた。
何故だか顔を見られている気がするのだが、何故なのか解らない。そもそも想い人に見られていて平然としていられるほどの度量は持ち合わせていなかった。

「あの、楽進様」
「っはい!」
「ちょっとこちらを向いていただけますか」
「っ、は…、あ、はい」
「……ああ、やっぱり」

目線をどこに持っていけば良いのか、楽進は戸惑いながらも視線を右往左往しながら顔を彼女に向ける。どこを見れば良いのか本当に解らない。顔は失礼な気がするし、胸元はもっと失礼だろう。足元をずっと見ているのも彼女に対して失礼な気がする。失礼にしかならない気がしてきて、本当にどうしたら良いのか解らなかった。
そうして、彼女はやっぱりなどと言って自分に手を伸ばした。

「ぇ、」
「顔に、怪我をされています。痛くはないですか?」
「は、えっ、いえ、い、痛くは、ないです」
「あ、ちょっと血も出てるじゃないですか。今拭きますので…」
「!?いっ、いいえ!これくらい日常茶飯事なので、大丈夫ですから!」

彼女がわざわざ自分の布を取り出そうとして、慌てて断るが、気にせず血があるであろう部分を拭われる。
あ、確かにちょっと痛んだかもしれない。チリッとした痛みが来たが、今はそれどころではなかった。

「~~~っ!」
「あっ、すいません痛かったですか!?」
「い、いいえ…!大丈夫です!」

傷がどうこうでは、ないのだ。
楽進は顔の熱さをどうにもできなかった。

「…あの、恐縮です、自分なんかに…」
「なんか、では、ないです」
「は、」
「楽進様は…もう少しご自愛ください」

何故だか彼女は、不貞腐れ気味な顔と声音で、そう言った。



13/05/16
楽進の恐縮です、を使いたかっただけの話。
しかし彼は本当に自分を使い捨ての駒のように見ているので、彼を好きな人から見たらそんなの辛いだけではないかと。
自愛という言葉には、自分を大切にすることだけでなく自分の言行を慎むことも含まれているので、そう考えるとヒロインの言葉が深いものになってくるようなそうじゃないような。
何が言いたいかってつまり両片想いですってことです。
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