(あ、美味しい…)

彼女が気まぐれで作ったそのお菓子は、思っていた以上に自分の舌が喜んだ。彼女の手作りという所が一番のポイントかもしれないが。
ただの気まぐれで作った物だったので、美味しいということだけ伝えて、また出来れば食べたいとまでは、言えなかった。また今度食べたいと言ったらは作ってくれたのだろうかと考えてしまって、少しだけ後悔した。けれども彼女にあまり迷惑は掛けられないから、思っても言うことは無かった。

だから、1週間後にまた作ってくれたときは、かなり味わって食べた。

「…この間のも、今回のも美味しいです」
「ありがとう」

照れながらお礼を言うに、エーリッヒもお礼を言った。自分自身、おやつを貰えるのは食費面で結構助かったりする。何より美味しい。しかもの手作りなら言う事無しだ。幸せすぎて笑うしかない。

それから何度か、はエーリッヒにそのお菓子を作って持っていった。違うお菓子も出されたが、一番美味しかったのはやっぱりアノお菓子だった。出される前は期待するし、出されたら目が輝くのが自分で解った。しかも目当てのお菓子じゃなかったらちょっとだけ残念に思う。でもの作る物に文句は言わなかった。作ってくれるだけ有り難いからだ。
それから暫くして、何だか自分の好きなアノお菓子ばかり作ってくれていることに、やっと気付いた。

「…最近は、このお菓子ばかり作ってくれるんですね」
「え、うん」

嫌だった?と少し不安気味には尋ねた。まさかそんなことは無いと、少しだけ大袈裟に否定した。それくらいの作るこの目の前のお菓子が美味しかったし好きだった。

「ただその、何でこのお菓子ばかりなのかと思って…」

そう言うとは「え、」と逆に驚いた声を出した。何を言っているのだろうという、疑問を前面に出した顔で口を開く。

「…だってエーリッヒこのお菓子好きでしょ?」
「え、」

何で解ったのか。美味しいとは言ったが、それは毎回どのお菓子でも言うし、このお菓子「だけ」を「好き」だなんて、言ったことも無いのに。

「だってエーリッヒ凄い美味しそうに食べるから」
「…、」
「いつも美味しいって言ってくれるけど、このお菓子の時は凄い味わって食べてるし」
「………、」

正しくその通りだ。もの凄い味わって今も食べている真っ最中である。
…言ってもいないのにバレバレだったのだろうか。とても恥ずかしい。

「…他のお菓子も美味しいんですよ」
「うん。でも一番好きなのはこのお菓子でしょ」
「………ハイ」
「だよねー」

美味しそうに食べてくれるから、自分の好きな物を何回も作ってくれていたらしい。嬉しいけれど、自分がそんなにも解り易い人間だったなんて、ちょっとショックだ。
にそこまで理解されているのは何故だか気恥ずかしかった。自分のことを解ってくれるのは、幸せなのだけれど。
彼女には好きも嫌いも、全部ばれているのかもしれない。

「…の作るこのお菓子が、最近一番好きです」
「そっか。ありがとう」

気恥ずかしかったけれど、彼女にそうやって理解されているのはちょっと幸せだと、エーリッヒは思った。



09/11/11
エーリッヒは好みをあまり言いそうにありませんが、意外と解りやすい行動とかしそうです。
それなりに一緒に居れば解る、みたいな。
凄い甘いものはそこまで好きじゃないけど、程々の甘さで舌に合うようなお菓子は好きそうです。