「何で何もしちゃいけないの?」
「何でもです」
二人の休日が重なって、でも別段出たい場所もなく。今はいわゆるお家デートというやつ真っ最中だった。
ただし今日は一日、は何もせずにエーリッヒが全てやるという条件付きなのだけれど。
「洗い物くらい手伝って良いじゃん」
「駄目です。ちょっと待っててください」
何故なのか聞いても答えは言わず、結局エーリッヒに弱いが謎の要望を聞いている状態だった。謎過ぎる。
(普通、手料理が食べたいとか、言ってくるところでは…)
逆に自分が彼氏の大盤振る舞いな手料理をご馳走してもらっている状態である。これがまた美味しいのだから全て完食してしまう。
しかも部屋の掃除もしてくれたり、洗濯も入れてくれたり(干すのはエーリッヒが来る前にやってた)、アンタはうちのお手伝いさんか何かか?というような働きっぷりである。家の住人であるは何もしていないしさせてもらえない状態で、本当に何だこの状況は。
(……エーリッヒが、一日私のために色々してくれるっていうのは、こう、嬉しいけど)
朝から晩までエーリッヒが近くにいて、自分のためにこうやって動いてくれるのは、凄く嬉しい。一緒に買い物に行って、買った物は全部持ってくれるし、食事は自分の好きなものだし、おまけにお菓子まで作ってくれた。何だこの完璧男は。
何よりも嬉しいのは、やっぱり一日中、目の映るところにエーリッヒがいることだけれど。
「ねー、お姫様みたいな扱いで嬉しいけどさー、私の家なんだから私も何かやりたいんだけどー」
「駄目です。今日は、僕がを甘やかそうって、決めたんです」
「……」
いや嬉しい。凄く嬉しい。
ただエーリッヒが家事をしているときはちょっとだけ暇だったりする。メールも見終わったし、別段見たいテレビ番組もない。
しかしこのシチュエーションはアレか、漫画みたいなことができる気がする。
思ったら恥ずかしいながらも行動に出てしまった。
「……邪魔になったら言ってー」
「いいえ、大丈夫ですよ」
寧ろ嬉しいです、なんて優しい声でエーリッヒが言うから、はそのまま甘えてエーリッヒの腰に抱きついたまま離れなかった。
「ねえエーリッヒ」
「はい」
「…今日は甘やかしてくれるんだよね?」
「ええ」
「じゃあさあ、その洗い物はもう良いから、私をぎゅっと抱きしめてくれませんか」
「洗い物もう少しなんですけど」
「後で良いし私がやる」
「駄目ですよ」
「じゃあ私をほっとくのも駄目ですよ」
「……腰だけじゃ満足しませんか」
「しませんねえ」
「…まあそう言ってる間に終わりましたけど」
「やった。こっち向いて」
「はい」
自分よりも大きくて広い腕の中は、とてつもなく温かくて幸せなのです。
13/02/11
20万打御礼企画
群青三メートル手前様から君酔二十題
07.きみの視界をしあわせで埋め尽くしたい
彼の思惑は、全部彼女に伝わらないのでしょうけども。
それでも彼女と一緒にいて幸せだと思えて、彼女もそう思ってくれるのなら彼は本望だと思います。