つい、勢いで、言ってしまった。



WGP3回目、ミラーはNAアストロレンジャーズのリーダーになっていた。
年上だったブレット、ジョー、エッジ、そして一番仲の良かったハマーも今のチームには居ない。NASAのことが有るので顔を合わすことは多いが、学校も年齢も違うため会えないことも多かった。それでも今のチームメイトよりも仲は良い。付き合った年数が違うのでそれはしょうがないと思っていた。
WGP1回目に比べて色々様変わりした。そもそも自分がリーダーにまでなったし、自身も随分成長した。身長も伸びたし、そばかすは少し減った。声変わりも来て段々大人になっていくのが自分で解った。
他のチームでもやはりメンバー変更は多々有ったし、出場国も変化していった。
ドイツのミハエルや日本のゴウ・セイバなど、同い年はまだ残っている。
日本チームのも、残っていたり、する。

(嬉しいけどやっぱり敵チームだしなあ…)

去年からそう思い始めていた。恋をしたのは良いが何分相手が悪いとしか言いようが無かった。我ながら難関な道を選ぶなあと思った。
そもそも逢えないという時点で色々無謀な道な気がした。接点が無いしアタックも出来ない。どうしろと言うんだ。
けれども気付いたのだ。目で追ってるのは、彼女だけ。
正直、それに気付いたのは先輩のジョーに言われてからだったのが、ちょっとだけ癪だった。今もまあ、まだ子どもだが、言われた当時はそれ以上に子どもだった。そんな自分の行動に気付かなかったし、言われて理解しようとしていなかった。
…その後、ブレットやエッジにまで、同じことを言われて、流石に自分の気持ちには理解していったのだが。(因みに最後までハマーが気付かなかったのは、彼らしいと思った)

去年一年間は、何とか普通に話をする程度の仲だった。母国の同い年の男子は、…人にも寄るが、彼女を作って夜遊びに興じることだって有るというのに。
付き合いたいかと言われれば、少しだけ悩んでしまう。

(…付き合えても、逢えないし)

今年で自分もこのチームを卒業する。本格的に学業と、NASAに打ち込むことになる。それは自分自身待ち望んでいたことで、不安も不満も無い。有るとしたら、…との接点が、全く無くなることだけだった。
国が違う、目指すものも全く違う。それだけで、付き合いたいという願望は無くなっていった。普通に考えて無理だった。

付き合いたいけれど、付き合えない。でも、彼女のことは好きだった。
だから今年は想いだけでも伝えようと、思った。気持ちだけでも伝えて、けじめは付けたかった。

(付き合うとかじゃなくて、とりあえず好きって言えたらなあー)

付き合うだの何だのは、その後でも良いと思った。正直な話、同じアメリカ人だったとしても、逢える時間は少ない。自分の生活はNASAでいっぱいいっぱいだ。…だから、もの凄い遠距離恋愛だけれど。逢いたい時に逢えないけれど。それでも良かったら、もしも良かったら、付き合いたいなあとは、思ってる。

(…凄い願望だけど。って言うか、がOKするかも解らないけど)

とりあえず、先ずは好きだと言わないと何も始まらないと、思った。



***


そんなことを常々考えていたせいか、いざと二人きりになったら、その事しか考えられなくなっていた。
後から考えると、この時の自分は頭のネジが一本どころか、何個も飛んでいたに違いないとミラーは頭を抱えた。
それくらい短慮だったと、自分自身で思う。

(こう、自分が悩んでる時に限っても現れるからな…!)

しかも都合よく二人きりなのだ。いつもは日本メンバーが居たり、アメリカメンバーが居たりと誰かしら人が居ることばかりなのに、放課後のスクールの教室で、二人きりなのだ。都合よすぎる。どうすれば良いのだろうかと、どうすれば良いのかなんてもう決まっているじゃないかと、頭の中で二つの思いが動き回っていた。
ほとんどそれしか考えてなかった。今ココで、言ってしまわないと次のチャンスが有るか解らない。
好きと言わなければ、事は進まない。

だから、言ってしまったのだ。

、」と名前を呼んで、少し息を吸った。
どうかしたのかとあどけない顔を向ける彼女に、自分の気持ちを真っ正直に伝えた。

「…俺、が…、…っ好きだ」





(いよぉしッ!言えた!やった!やっと言えた!)

約一年越しの想いを打ち明けて、ミラーはそれだけで心躍った。正直今年、レースがどんな結果になろうと思い残すことは無い。それくらい晴れやかだ。
地味に笑顔になって拳を握っていたが、有頂天になってから、気付いた。

「…、………」
「…!」

告白出来て晴れやかだった顔が一転、真っ赤に染まった。
不味いマズイまずい。そういえば言おう言おうと思っていたけど、言った後どうしたいのかは考えてなかった!
が眼を見開いて呆けている顔を見て、やっと現実に気付いた。そういえば、自分はこの後どうしたいのかは全く考えてなかった。付き合いたくても、自分の状況的にはどうしたって彼女を満足させられない。しかもかなりの遠距離恋愛だ。告白したって、よく考えなくても迷惑になるようなことなのに。
とりあえずは好きだと言わないと事は進まないが、言ったとしてもどうしようも無い状況になることに気付くべきだった。それなりに自分の頭脳に自信が有る分、こんな馬鹿なことになったことが恥ずかしかった。

(…この場合どうすれば良いんだ!?え、もし良ければ付き合ってください!?でも逢いたい時に逢えないのにそんな事言えねえし!)

ダラダラ冷や汗を流しながら、ミラーはひたすら考えて、考え抜いたけれども何も思い浮かばなかった。
とりあえず彼女を見ていること自体恥ずかしい。逃げ出したい。
その思いが飛びぬけてしまった。

「……そ、そういう事だから!」

とりあえずこの場は逃げようと、ミラーは全てを投げ出した。声を掛けられないように全力でから遠ざかる。本気で恥ずかしい。全てが恥ずかしい。

「え、ええ!?ちょ、まっ、ミラー!?ええッ!?」

後ろからの驚いた声が聞こえたけれど、全部無視した。今はもう恥ずかしいしか考えられない。
全力で部屋に戻ってから、ミラーはベッドの上でもの凄い落ち込んだ。

(…何で俺ってこんなに爪が甘いんだ…)

畜生、と思っても恥ずかしすぎてどうしようも出来なかった。とりあえず自分が意外と馬鹿だということに自分自身で気付いた。とてもショックだった。
明日どんな顔して、に逢えば良いのか解らずにただどうしようしか考えてなかった。



***


ミラーが真っ赤な顔で走り去って行ったのを見送ったは、今の出来事は一体何だったのかと考えなければならなかった。それくらい混乱している。まさか放置されるとは思っていなかったので、もの凄い驚いた。え、もしかして勢いだけで言ったの?

(っていうか!こんな気持ちにさせといてミラー何処行くのよ…!)

言われたことが嬉しかったのに、言葉が出ないくらい嬉しくて驚いたのに!言われてやっと国境とかそんなの関係無いと思えたのに、何で言い逃げをするのか。
自分だって、ミラーが好きだったのに!
行き場の無い怒りではどうすれば良いのかと思った。

(……とりあえずアレかな、次逢ったら私も好きって言えば良いのかな)

何だかもの凄いべたべたな流れだけれど、まあそれも良いんじゃないかと思った。
ミラーと同じように顔を赤くして、それでも晴れやかな顔では教室から出て、寮へと帰って行った。



09/10/10
恋をしました。の続編として一応考えてます。
アレからミラーは自分の気持ちを認識して、相手のことを考えるようになりました。
とりあえず好きって言わなきゃどうしようもないと考えているのではないでしょうか。一直線な彼がまた良い。
しかしその後のことはあまり考えてません。未来のことは考えているんですが、直後のことは考えてません。(寧ろ考えられない)
アストロのリーダーは所々爪が甘いところが受け継がれると思います。