幸福のいくつか

 烈 

その子は大抵、友達のことを名字で呼ぶ。
最初は僕のことも名字で呼んでいた。「星馬くん」と。
でもそれじゃあ、豪と一緒になってしまうから。
だから、僕のことを「烈くん」と、呼ぶようになった。
何故だかそれが、堪らなく嬉しくて嬉しくて、でも何故だか背中がむずむず痒くなるような感じがした。

「ねえ烈くん」
「うん、なあに、ちゃん」


12/05/03





 シュミット 


「何よシュミット」

そいつは、面倒くさくない女だった。
周りにいるのは何処ソコの令嬢だの、貴族だの、王族だって欧州では珍しくない。爵位を持っている自分の家のせいで、周りにはそういう人間で溢れていた。自分も、そういう側の人間なわけだけれど。
周りにいる女は、そういう面倒くさい女ばかりだった。
レディと呼んだり、自分よりも上の家ならば様付けだって当たり前。それは小さい頃から叩き込まれてきたことで、そういうことが習慣だった。
アイゼンヴォルフのチームにいる間は、どんな地位だろうと関係なかった。チームの仲間も、敵チームの連中も、全員が自分をただ一人のレーサーとして見てくれた。
だからこそ自分も、チームメイトや他のチームのメンバーに対して平等に、ただ普通の接し方を、した。
それがとても楽だった。幼馴染のエーリッヒと一緒にいる安心感を持てる人間が、たくさん増えた。
今目の前にいる日本チームのは、そういうことで楽な接し方ができる面倒くさくない女だった。
何の敬称もなく、媚びる必要もない。
彼女も自分をただの小学生で、ミニ四駆レーサーとして接してくれる。
何の飾りもなく彼女の名前を呼べることと、ただ普通に自分の名前を呼んでくれる彼女の対応が、何故だか宝石箱に入れておきたいくらい大切なもののように思えた。


12/06/19
しかしその後他の子達と同等の扱いをされることがちょっと嫌になってきて何でだろうと悶々としてくるわけです。





 カルロ 

日本チームは、変な奴の集まりだと、思った。
喧嘩吹っかけてきたあの青いチビもそうだが、締まりのない顔でへらへらと近づいてくる阿呆な女も、変な奴だ。
自分たちイタリアチームの悪事(だが自分たちは悪いことだと微塵も感じていない)が表沙汰になっても、へらへらとした顔でチームにも、自分にも近づいてくる。
それが下心ありならまあ解らなくもないのだが、目の前の女は本当に、微塵も、何も考えていない。
まあ、だからこそ自分たちの隣にも立てるのだろうけれど。
ミニ四駆の話も、イタリアの生活や日本に居る間の生活も、どんな服を買うだの好きな食べ物は何だの、そういう話を、何の臆面もなく喋る。
そういう女は意外といないし、気分転換に喋るのに別段嫌いでは、なかった。

「おい」
「はいはい何ですかカルロくん」


12/07/01





 カルロ(未来夢) 

「おい
「んー、何カルロ」

日本人は変だ。結構言われることだが、実際関わってみてやっぱり自分自身、カルロもそう感じていた。
変態だの小さいもの好きだの、確かにそうだ。しかし時折バケツプリンだの馬鹿でかい板チョコだの消しゴムだの、あとアレだ、巨大ロボだの、いきなり巨大化させる辺りやっぱり変だ。
未だに自分の隣にいるこの日本人の女も、やっぱり変だ。
そう思いながらも、隣からいなくなろうとするならば連れ戻すだろうと、カルロは何となく解っていた。ミニ四駆の世界大会中は何故だか気恥ずかしさを感じて呼べなかった名前を、きちんと目を見ながら呼ぶことができるようになっている時点で、もう駄目だと思ったし、引き返せないとも何故だか思った。

『おい』
『はいはい何ですかカルロくん』

ガキの頃からこの女が隣にいて喋ることが幸せなことだったのだと、大人になってみてようやく気が付いた。
多分、こうやっての名前を呼ぶことや、の手を取れるようになったことも幸せなことだったのだと、後になってから思えるようになるのではないかと、カルロは何となく思ってまたの名前を一つ呼んだ。


12/07/14





 ミハエル 

「ねえねえ、
「何?」
「手繋ごうよ」
「えー…」
「えええ!?何で?嫌?」
「んー、恥ずかしい」
「彼氏彼女なのに?」
「…人がいるし…」
「でもあそこのカップルも手繋いでるよ」
「……手汗が…」
「僕に緊張してるってこと?そんな可愛いこと気にしないよ」
「…………」
、手繋ごう」
「…ちょっとだけだよ…」
「うん」

そうやってお互い手を繋げることが、とても幸せで嬉しい。


12/08/18


お題「LUCY28」様



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