意地っ張りな二人

「シュミット算数教えて」
「は?行き成り来て何だお前は」
「だから算数教えて。私文章問題が苦手でさー」
「俺はドイツ人だぞ言っておくが」
「知ってるよそれくらい。どんだけ私鶏頭だと思ってるのさ」
「…、外人の俺に日本語の算数問題を解けと?」
「解けるでしょ?」
「(解けなくもないが何でこんな腹が立つんだ…)」
「え、嘘解けない?じゃあ良いややっぱりうーん、J君とかに聞いてくるよ。エーリッヒとかブレットも出来そうだし」
「誰も解けないなんて言ってないだろう鶏頭」
「酷いな相変わらず。良いよやっぱりシュミットって教え方上手そうな割に口悪いから絶対解いてても楽しくなさそうだし」
「お、ま、え…!人に物を頼む態度かそれが!(褒めた後に貶すか普通!)」
「あんたが馬鹿にするからでしょ!(一緒に居られると思ったけど絶対馬鹿にされる!)」


 何でこんなヤツなんかに 

惚れてしまったんだ自分!





「シュミットはのこと好きなんじゃないの?」
「は?何を行き成り」
「好きなんじゃないの?」
「……、好きですけど」
「(あれ素直だ)何処が?」
「ふてぶてしいんだか憎らしいのか解らないあの顔とか」
「(が聞いてたら多分殴られてるよシュミット)え、っていうか顔?顔なの?」
「…、女らしさのカケラも無い猪突猛進のようなあの性格、とか…(何の拷問だコレは)」
「………」
「………」
「…のこと好きなんだよね?」
「は?好きですけど」


 愛情表現間違ってますか 

あー…うん、取り合えず好きって言葉を本人の目の前で言えるように頑張ってね。
貶すんじゃなくてね。





「好きじゃないよ」
「嘘吐きだねは」
「好きじゃないよ本当に」
「本当に?ほんとーにシュミットのこと好きじゃないの?」
「…、…ミハエルはどうしてそんな性格してるのさ!」
「え?だってが嘘吐くから」
「吐いてない!」
「ふーん?本当に好きじゃないの?」
「す、すきなんかじゃ、ない…!」
「あ、じゃあ愛してるんだ!」
「はああ!?」
「え、だってそういうことでしょう?」
「どうやったらそうなるのさ!」
「好きじゃないイコール愛してるって…」
「ならないし!」
「ええー?好きと愛してるじゃなかったら他に何が有るのさ?」
「何でそこ2択なの!?」
「だって嫌いだったらあんな風に話しないでしょ。避けるでしょ普通なら」
「う、」
「シュミットのこと、好きなんでしょ?」
「…す、 き…です(うあああもう!)」


 友達に好きかって言われるとね 

本人に言うわけじゃないから、すきとか、言えるけどさ…!





「ふん、ほら見ろやはり勝つのは我々アイゼンヴォルフだろう」
「何を偉そうにしてるのさ最終コーナーでちょっとぐらついたでしょ」
「(何でそんな細かいところまで見てるんだコイツ!)…相も変わらずそういう所だけは目聡いな」
「(他は文句無く格好良かったのにさ)シュミットがちょっと気を抜きすぎたんじゃないのー?」
「(お、お前が見に来てるって聞いたから…!)何を見てたんだ気なんて抜いてない!(寧ろお前が見ていたから力が入りすぎて…!)」
「ふーん、そういう言い訳するんだー」
「お前いい加減その可愛げのないこと言うの止めたらどうだ(何で俺のときばっかり、)」
「シュミットもいい加減その剥がれきってる化けの皮他の人の前で被るの止めたほうが良いよ。見てて気持ち悪いし(女の子に笑ってるの見てるとムカムカするし)」
「何だと?」
「何さ本当のこと言っただけだけど?」

((駄目だあの二人…))


 本当は、素直になりたい 

そうしたらもっと関係は変わるかもしれないけれど、





さんが雑誌を見て楽しんでます※

「あ、これ可愛い」
「…お前が?これを?」
「何さ文句有るの?」
「…いや、」
「じゃあ何でそんな歯切れ悪いのさ」
「…お前にはこれは似合わないだろう」
「………(私何でこの男好きなんだっけ?)」
「…どうせ、なら、こっちの色だろ」
「え…、うそだあ」
「何がだ何が。こっちのほう、が、お前に合うぞ。…この中のだったら」
「…本当?」
「……ああ」
「ふーん、…じゃあ今度似たようなの買ってこようかな」
「……、ふん。そうなったらまた自分で似合わないのを買ってくるんじゃないのか?」
「う、うるさいなあ。良いじゃない自分が良いと思って買うなら」
「………お、れが…、」
「え、何?」
「俺が、見繕ってきてやる」
「……は?」
「(…この、)だから俺が、探しに行ってやると言ってるんだ」
「一体何の見返りを期待してそんなこと言ってるの?(あのシュミットが有り得ない!)(嬉しいけど!)」
「(こいつは!)人様の好意を無下に断るかお前は!」
「ええええ嘘うそ!え、…本当に?」
「俺が嘘を吐くか。…お前自身が選ぶよりも良い物を買ってきてやる」
「(あ、やばい。う、嬉しすぎる…)…じゃあ期待しないで待ってる、よ」
「馬鹿者目いっぱい期待しておけ」
「……うん、」


「…あのさあ、そこは普通をデートに誘うところじゃないの?」
「は!?な、何を言ってるんですかリーダー!」
「いや普通そうだよねエーリッヒ」
「そうですねその会話の流れだと一緒に買い物に行ってさんに似合う物を買ってあげると言うのが普通ですね」
「エーリッヒお前まで何を言ってるんだ!」
「いや普通そうだってやっぱり」
「ふ、普通って…。さ、誘えるわけがないでしょう!」

((やっぱり駄目だ…))



後日確かにシュミットからプレゼントなるものを貰うわけだが庶民のにとって高すぎる物だったので右ジョブを食らわしつつ返品させてもらった。

「一体何が気に入らないと言うんだお前は!(折角選んで買ったのに!)」
「高すぎるんだよこの野郎!こんなの貰えるわけないじゃんか!(嬉しいけど悲しい!)」


 少しだけ近づいた一歩 

「…先ずはシュミットに一般常識から教えていきましょうか…」
「…うん、そうだね…」





「だから!何でそんなこと言うの!?」
「お前が先に言ってきたからだろう!?」
「そう言うシュミットだってこの間…!」
「何だとお前だって一昨日はあのときのことをほじくり返してきたくせに…!」
「昨日と言ってることが違うじゃない!」
「何を言ってるんだお前は!」

「…、プレゼント云々の話でとりあえず仲良くなったのに何でまた喧嘩してるのさ…」
「しかも1週間前に二人で話し合って解決した話を蒸し返してますよ」
「……」
「……」
「仲良いのに何で駄目なんだろうねあの二人」
「素直になれない二人ですからね」
「……」
「……」
「「…はあ」」


 また後戻りする一歩 

まるでメビウスの輪のようだ!





「(いい加減落ち着け俺…!)」
「…シュミット、具合が悪いなら帰ったほうが…」
「な!?何だお前今日に限ってそんな優しいだなんて!」
「はあ?何か顔赤いし具合も悪そうだから言ったのに何なのあんた」
「(う、ぐ)…わ、悪かった…」
「…何、本当に具合悪いの?平気なの?」
「こ れくらい、平気だ。…さっさと、行くぞ(じっと見てたらもたない!)」
「 ? …うん。(本当変なの。…でもまあ、チームの買い出しでも、一緒なのは嬉しいかも)」
「(ああくそ、何で今日に限って、)」


 ただの気まぐれ、こんなのは 

そうだ気まぐれなんだろう。こん な、可愛い、格好をしてきてるの は。
(俺と一緒だから、という理由だったら、とても嬉しいと言うのに)


因みに「もたない」のは「理性」ではなく「恥ずかしくてもたない」と言うことですハイ。





「…何だ意外と美味いな」
「意外とって本当失礼だなシュミット」
「出来ないと思っていたからな」
「こんの野郎」
「…今まで貰った差し入れの中で一番美味いお菓子だな」
「……………………ぇ」
「…っ、(…ぅ、わ)」




 たまには素直になってやる 

そう思って言ってみたら思ってた以上の効果だった。
(顔を赤くしたまま俯く彼女はとても可愛らしく、)(思わず自分も目を逸らした)





「お前等付き合ってるわけじゃないのか?」
「「はあ?」」
「…口をそろえるくらい仲が良いんだな」
「ブレット一体どういう意味だ、誰がこんな口の悪い女と付き合ってると?(俺が貴族だと知っても口が変わらない唯一の女だが)」
「そうだよブレット。何で私がシュミットと。こんな顔が良いだけで口の悪い男と誰が付き合うのさ(時折凄い優しいけど、)」
「…ああ、あれか。喧嘩するほど仲が良いって…」
「「誰と誰が!」」
「……」
「こんな女好きなわけないだろう」
「私だって選ぶ権利は有るでしょう。私だってシュミットのこと好きじゃない」
「……あーそうか。解った邪魔したな(関わるほうが駄目になるタイプか)」
「「ふん」」


 それでも言ってしまう『好きじゃない』 

駄目だと解っているのに言ってしまうんだ。





「…も、大会も終わりかあ」
「ああ、…来年は必ずアイゼンヴォルフが優勝してみせる」
「…うん、頑張りなよ。…そっか、もう暫く逢えないんだね」
「…ああ」
「…じゃあ、ちょっと素直になってみようかな、」
「は?」


 意地張る必要ってもうない、かな 

だって暫く逢えなくなるんだから。





「何を言ってるんだ行き成り」

お前が素直だったことが有ったか?そう付け足してシュミットは訝しげな顔をした。
そうやって眉を顰める顔もは嫌いじゃなかった。何をしても、シュミットは格好良いと感じていたからだ。

「…嫌だなあ、一応素直だったよ、いつも」
「どこがだどこが」

いつもいつも、自分の気持ちだけには素直だった。素直にシュミットが好きだった。
素直じゃなかったのは口だけだ。それが既に素直ではないことなのだろうけれど、いつも自分の気持ちには素直だった気がする。

「そう言うシュミットも、いつも憎まれ口ばっかり叩いて」
「売り言葉に買い言葉だろう」
「…何でそんな日本人よりも日本語上手いのかもよく解らないよ私」
「お前が国語能力低すぎるんだろうが」
「あのね、しんみりしてるのにどうしてそんなこと言うのかな」
「…、……」

流石に今回は自分が悪かったと思ったのかシュミットは口を噤んで目線を逸らした。
ああ、大会が終わった今、もうこんなやり取りも出来なくなるのか、そう改めて思ったら泣きそうになった。

「ねえシュミット」
「何だ」
「意地張る必要は、もう無いって思うんだ、私」
「…意地とか張ってたのか」
「うん、何か、…何が嫌なのか解らなかったけど、言うのが嫌だったから」
「何が」
「………」
「出し惜しみか」
「ううん、…っていうかアンタ、本当私には酷いことばっかり言うね」
「…っ、…そんなわけじゃない」
「うん、まあ。優しいところも有るから、そんないつも酷いわけじゃなかったけどさ」
「…、……(く、そ)(確かに今日は素直だ)」

すう、とお腹に力を入れて息を吸った。本当は、自分から言うのは怖いから、ずっと言いたくなかった言葉。
でも、シュミット相手なら。
次の大会まで逢えないと思ったら。
今しか、無いと思ったから。

「すきだよ シュミット」

シュミットの目が大きく開いたのを確認して、は少しだけ笑った。
怖いけれど、言ったことによる達成感の方が大きかった。

「返事…は、良いや」
「な、に」
「返事は要らない」
「なん で、」
「何となく解ってるから。次の大会で、また口喧嘩させてね?」

そう言って手を振って後ろを向いた。
悔いは残したくなかった。だから言った。
言えたことによる達成感だけが強かった。後悔は、無い。
ただ、次の大会ではもう、シュミットは今までのように接してくれないだろうと思ったら、少しだけ今まで口喧嘩していたことが輝いて見えた。
一歩進んで一歩後退してるんじゃないだろうかと思った。それでも前に進めないよりは良いと、は笑う。

とりあえず言いたいことは言ったから、精々悩んだり、自分のことでいっぱいになってもらおう。
そう思っていたの歩みを止めさせたのは、その場に一人しか居なかった。



***



「…何?」

後ろから腕を掴まれては少なからず驚く。まさか追いかけられるとは思っていなかったのでビックリだ。
というか、シュミットの余裕の無さにはビックリした。

「…言い逃げとは良い度胸じゃないか!」
「え、いや、…ごめん?」

あまりの気迫にはとりあえず謝っておいた。え、おかしくないか今のやり取り。

「どう、せ!このまま言い逃げして帰国の時にも顔も見せずに居て、…それで次の大会まで精々悩んでれば良いとか、そんなこと考えてるんだろう!?」

違うか!?そう怒鳴って少しだけの腕を掴んでいるシュミットの力が増した。痛くは無いが、掴まれているというのは気分的に良くない。
そんなことを頭の端で考えつつはシュミットが言ったことに驚嘆した。

「…凄いやシュミット。何でそんな私が考えてたことと全く同じこと言い当てるの?」
「こんな所まで素直になるな馬鹿が!そこはせめて少しくらい否定しておけこの…!」

また馬鹿と言われるんじゃないかと予想していたは、その言葉が来るために少しだけ身構えた。
暴言だけを受け止めるつもりだったは、シュミットの次の行動に対処出来なかった。



***



を腕に抱きしめ、シュミットは眩暈が起きそうになるのを必死に堪えた。
初めて抱きしめる愛しい人の身体は自分のそれとは確かに何かが違った。
女性とハグしたことが無いわけでも無かったのに、まるで初めて異性と抱き合うような感覚を味わった。
(これが、彼女の、身体)
何とも卑猥な言葉が出てきたことに赤面したが、思ってしまった以上仕方が無かった。
抱きしめる腕も、緩めるつもりは無かった。

「…、え、ちょ、何、シュミット」
「うるさい黙っておけ」
「なに、な、…何 で、」
「……」

少し涙声になってるんじゃないかと間近で聞いていて思った。泣かしたのは自分。抱きしめているのも自分。
に告白させたのも、自分。
何故だか優越感が出てくる。それすらも愛しさに変わっていく気がした。

「しゅみ、っと」
「……俺だけ、悩んでおくのは不公平だろう」

また理不尽なことを言っていると自分自身解っていたが、今回は止めようと思わなかった。
自分だけ、相手のことを目いっぱい考え続けるのは、ごめんだ。
どうせなら、愛しい彼女にも自分のことで悩んでいてほしい。

「しゅみ…っ」

多分自分の名前を呼ぼうとしたその口を、自分の口で塞いだ。
触れるだけのものだった。それが今の自分には精一杯だったからだ。
それでも、十分なものだった。

軽いキスをしたあと、腕の中から放心しているを自由にしてシュミットは踵を返した。

言葉にしたのは。態度で表したのはシュミットだった。
シュミットはを背にしながらまた悪態をつく。

「…精々、次の大会まで…俺のことで悩んでいると良い」

そう言い残してその場を後にした。
は自分の口元に手を当て、視線がシュミットの後姿や地面などを行き来する。
少ししてから手を当てたまま、瞳を閉じる。シュミットに抱きしめられてからは、顔は赤いままだ。
瞳を閉じた瞬間シュミットを好きになって良かったと何故か思った。しあわせ、だ。

次の大会で逢ったときは抱きしめてキスをしようとは思った。
次の大会で逢ったときは好きだと言おうとシュミットは思った。


 そうして春を迎える 

そこで意地っ張りな生活は終わりを告げた。



08/05/06
お題:Traum der Liebe
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