きみへと続くやわらかな道

20万打御礼企画

ロシアでは男性が女性に花を贈るのが極一般的で、月1であげても少ないほどだ。
ロシアで生まれ育ったユーリもその一般的な習慣に慣れ親しんで成長したので、には惜しみなく花束を贈っている。最初に贈った花束は古典的に赤い薔薇だった。花瓶を買わないと、なんて言っていたのでその後花瓶も贈ったことがある。
申し訳ないという顔を全面に出して、それでも彼女は自分の贈ったものを全部笑顔で受け取ってくれた。彼女の部屋に行く度に、贈った花瓶や花束が飾られているのを見てとても幸せな気持ちになっているのを、彼女自身が多分知らない。好きな人に物を贈るだけでなく、こうやって受け取ってくれるだけでも幸せだということを、彼女は教えてくれた。
がロシアに来た当初、やはりこちらの習慣が解らなかったため、自分と付き合い始めてからあまり間を置かずに花を贈るのには困惑したらしい。こちらでできた友人や自分自身も色々教えて最近では笑顔で受け取ってくれるようになった。日本の習慣とでは全然違うらしく、レディファーストですら未だに少しぎこちない。申し訳ないようだった。

「そんな風に女性ばかり気にしてたら、疲れちゃうじゃない」

私自身そんなか弱くないし、自分のことは自分でやるから、何か申し訳ない。彼女はそう言った。それはそれで日本人の気遣いなのかなと、ある種のカルチャーショックを受けた記憶がある。
ロシアもご他聞に洩れず、レディーファーストが定着している国だ。むしろユーリからしたら日本の国のほうが先進諸国では珍しい。島国とか以前に、歴史的に欧米諸国とは違う一途を辿っているせいではあるかもしれないが。そんな、男性が女性をリードして気遣う、というのはからしたらどうにも居づらく何だか申し訳ないという気持ちになるらしい。ユーリものロシアの友人たちがお国柄だと説明して、今は少しずつ慣れてきている。

「でも日本でも重いものを男が持つとか、あるだろう」
「あーうん。それはあるけど。でも流石にクロークでコート一緒に預けたりとか、それはないよ」
「ああ」

日本でも重いものを持ったり車道側を歩いたりというのは一般的らしいが、劇場に行って女性のコートを脱がすのを手伝って自分のものと一緒にクロークに預け、番号札も男性が管理する…という徹底さはないらしい。自分の物だから自分で預けて自分が管理する、というのが日本の当たり前だそうだ。
でもこれがロシアという国で、自分もその習慣が身についているのだからこの機会に甘えてみれば良いと、そのときはを言いくるめた。レディファーストをあまり受けたことがないというのなら、これから自分が目いっぱい与えることができる。彼女に女性としての扱いをすることができて、彼女は女性の顔を自分に見せてくれる。それすらも嬉しくて幸せだということを、彼女は解っていないしユーリ自身言うつもりはなかった。こればかりは男性の特権というものだろうか。
レディファーストをされているの顔は、申し訳ないというのだけでなく、少しだけ気恥ずかしそうに頬を染めて笑う。それが可愛いとユーリは思っているからがどれだけ嫌だとか恥ずかしいとか、申し訳ないとか言っても止める気にはならない。

そんなことを考えながら、ユーリは花屋で今日の花束を物色する。
こうやって彼女のことを考えながら花を選んでいる時間も、幸せなんだと気づけるようになった。自分自身に余裕が出てきたというのもあるのかもしれない。10代の、思春期のときの彼女へのプレゼント選びは難しいとしか思わなかった。今はこうやって悩んでいる時間も中々に楽しい。まあお金をかけられる年にもなったのが大きいかもしれない。やはり選択範囲が広がるのは良いことだ。
色々店内を見回って、さて季節に合わせたものを贈ろうか、それとも彼女の好みに合わせようか。いやでも、部屋のデザインに合わせたものも良いかもしれない。
悩んでいたら店員さんが声をかけてくれた。

「彼女さんへですか?」
「ああ、いえ。奥さんに。…結婚して、1ヶ月経つんです」

彼女のことを想って選んだ花束と彼女の好きなケーキを買って、家へと帰る道中ですら幸せなんだと、ユーリはの顔を思い浮かべながら笑っていた。



13/06/27
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