たいようみたいって、心から思った

20万打御礼企画

奴の笑顔というのは元々明るく、過去を微塵も匂わせないようなものだが、何とも自分の欲目なのか何なのか、とてつもなく格好良く見えることが多々ある。
からしたらそう思うことが堪らなく悔しくて、絶対本人には言わないようにと心に誓っていた。口を滑らせたら最後、どんな顔で何を言ってくるか考えるだに恐ろしい。

陰と陽で分けると男は陽で女が陰とされている。太陽が男で月が女を象徴するように、男女もそうやって別れる。
また、自分と燕青を分けるとすればそれはとてもよく当てはまるなと、は密かに思っていた。
あの笑顔は、そういうものに分類されると、は感じている。
例えどれだけ辛くても、あの男の笑顔は人を照らすのだ。どれだけ辛くて、どれだけ苦しくて、どれだけ悲しくても、あの男はそれを照らす笑顔を自分に、くれるのだ。

っ、…っ、…お疲れさん…」

一晩中かかった。最初の兆候は緩やかに、けれども確実に。その間隔が短くなり、痛みが増したとき「ああいよいよなのだ」と、感じた。
ようやく逢えるのだとも、思った。
一晩苦しんだ。痛くて痛くて、辛くて逃げ出せるなら逃げ出したかった。何だこれ本当に痛い。初めてこんなにも叫んだ。痛いこれ、本当に痛い。
当たり前か、痛いに決まってると、思う。
終わった今は、達成感と満足感でいっぱいだった。自分と、燕青のために頑張った。誰よりも燕青のために、強く願って踏ん張った。

「…何か、めっちゃ猿っぽいけど、元気だな」
「元気じゃなければ困る。……猿っぽいのは明らかにお前に似たんだろ」
「いやいやいや嘘だちょっと待て、俺は流石にこんな顔じゃない」

思わずは笑ってしまった。未だに余韻が辛く残っているが、今は嬉しい気持ちと、この男が傍にいてくれる心地よさと、やりきった充足感で幸せいっぱいだった。
ああ、幸せだ。誰よりも今幸せだと思えた。
だって自分は笑っていて、燕青もあの太陽みたいな笑顔をしている。

「もう少しすれば直ぐに顔も変わってくる」
「そうなのか?へー…。…とりあえず、頑張ったなあ。本当お疲れさん」

ありがとうと、燕青はあの笑顔で言ってくれる。
妊娠が解ったときも、この顔だったとは思い出した。この、誰よりも照らす顔で、ありがとうと、言ってくれる男。
一晩耐え抜いた自分の顔は涙でぐちゃくちゃだったが、更に涙が、頬を伝う。
胸に乗っている自分の子の重さは心地よく、泣き声すらも愛おしく感じる。どれだけ力を込めても握り締めたまま離さずにいてくれた燕青は、尚もずっとの手を握ったまま優しい顔を自分にも子どもにも向けてくれる。

痛くて痛くてしょうがなかった。辛くてしょうがなかった。それでも、頑張れた。
燕青との子どもだから、自分の子どもだから、燕青が、傍に、いてくれたから。

「…俺、今、すっげ嬉しい」

本当にありがとうと、燕青はまた御礼の言葉を繰り返す。
その顔を見て、は今まで思ってきたことを再度思い直す。ああ、やっぱりこの男は、この男の笑顔は。

「…私も、嬉しい」

そう小さく呟けば、燕青は手をまた握り返して、誰よりも明るく照らす笑顔で、受け答えた。





13/02/11
20万打御礼企画
群青三メートル手前様から
君酔二十題 06. たいようみたいって、心から思った
燕青でリクくださったヒヨさん、ありがとうございました。
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