雪が溶けたら

王都貴陽にも雪がしんしんと降り積もってる時期に、は玉にある言葉を口にしてみた。



「雪が溶けたら何が来ると思う?」

この間家人の子どもに出されたが間違えた問題を出してみた。極当たり前の言葉を玉が口にするのをは待った。
自室に有る書物を読んでいた玉は視線だけではなく顔も上げてを見やった。暫く静かに外を見ていると思えば…。
玉は溜め息を軽く吐きながら本を閉じ、言葉を呟く。

「…全くつまらないトンチですね」
「え、解るの?」

思ったことと違う言葉には少し驚く。口ぶりからして答えを知っている様子だった。まさか玉がこんな簡単なようだがある種大人であればあるほど難しい問題が解るとは思わなかった。と言うよりも、玉は現実主義者だ。有る意味こんな理想主義としか言えない答えを知っているとは正直な話思いつきもしなかった。ビックリだ。
玉は驚いているの顔に見向きもせず、持っていた本を書棚に戻した。戻しながら、落ち着いた声音で話す。

「何が来るかではなく、どうなるか、もしくは何になるかを聞いたほうが良いですよ。『来る』と言うとかなり限定されてきます」

そう言われては自分がどうやら問題の出し方を間違えたのに気付いた。あ、そうか成る程、確かにそうかもしれない。失敗した。
やっぱり玉は頭が良いなあとは思う。だがそこで気付く。

「……でも答え、言ってないよ玉」

ちゃんとした答えは言ってない。ははぐらかされてるのかとも思った。もしかしたら本当は答えを知らずに自分の気を逸らすような真似をしたのかもしれない。少しだけ勝ち誇った笑みをは浮かべた。もしかしたら、あの玉に勝てるかもしれない。
だが玉は極めて冷静に返答する。管飛翔が見たらどんな変な物を食べたのかと疑いたくなるくらい玉はの前だと静かだった。

「……そうですね、普通なら『春』と答える所ですが、」

そこで少しだけ言葉を切った玉にはえ?と思った。自分が出されたけれど答えることが出来なかった答えそのままだ。頭の固い大人ほど解らない、現実主義者から見たら鼻で笑えるような答えだ。それでもはとても感嘆した。それを考えた子どもの考えにも、その感性にも。そうして、とてもその問題には幸せが満ち溢れてるように感じられた。とても気に入った問題になったので、はあの現実主義者の玉にも出してみたのだ。あっさり玉砕したが。
は玉の言葉の続きが気になった。玉は現実主義者だけれど、とても頭も良いし回転も速い。玉が考える答えは?

「ここはとりあえず、」

書物からも書棚からも顔を上げ、の顔を見据えて玉はに歩み寄った。は今日も様になってるなーと人事のように玉の格好をマジマジと見つめた。ああ今日もこの人はジャラジャラしているがとても格好良い。眼福だ。
そう思ったら意外と玉が近くに来ていた。あれ、今そういうことするの?と思う間も無く玉との距離が無くなった。
身体と口を離しても近くに居る玉はの頬に手をやりながら微笑み言葉を紡いだ。



春と共に貴方との婚儀がやっと来る、と答えておきましょうか。



08/12/18
ひっそりとサイ様に捧げます。
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