近所のタマちゃん

「猫?」
「そうー、近所のノラなんだけどねー、色合いとか玉っぽいの」
「近所のノラと一緒にしないでもらえます?」
「えー、でもなあ。何か高飛車なところとか傲慢な感じとか色合いもそうだし美人なメスにしか行かないところとかそっくりだと思うんだけどなあ」
「ほお、貴方が私をそんな目で見ているということがよおく解りました」
「え、何。自分で今の私の言葉違うと思ってるの?そっちの方が不味いよ玉」
「理解してても本人の目の前で言う人がいるかって話でしょうが!第一最後の何なんですか!千歩譲って前半よくても、最後の美人なメスにしか行かないとか!どういうことですか!」

何で好きな女性にそんな目で見られなければいけないのだ。終いには本当に追いかけるぞ。

「綺麗なもの好きだし?」
「……」

それが何でメス好きになるんだ。的には「美人な」が主体なのか。メスはオマケみたいなものなのかと思えばまだ納得できた。しかしそうやって思われているのは真に遺憾だ。追いかけてるのはたったの一人だというのに。…本人は全く気付いていないが。自分で思ってちょっと悲しくなった。
はそんなこと気にせず話を続ける。

「でさー、ちょっと愛着湧いちゃってね」
「…で?」

そんなノラの猫なんかよりも自分に愛着を持ってほしい。いや、からの愛着はそれなりにあると勝手に思っているが。自分がこんなにも好いているのが悔しく感じてしまうほど想っているから、少しでも見返りが欲しくなる。ちょっとくらい良いじゃないか、そう思ったって。だって報われない片想いはちょっとだけ辛い。

「餌やったりとか、名前付けたりとかしてさ」
「そうですか」
「うん。タマって呼んでるの」
「……」

いやあ、その命名はどうだろうか。安易というか単純というか。本当に近所のノラの名前だなあと思ってしまった。
何故か相手だといつもの毒舌が出てこない。一応堪えて何も口には出さなかった。

「玉に似てるしねー。普通の名前だけど、玉の漢字から、タマちゃん」
「…………」

ちょっと嫌だなと思いつつ、嬉しいかもしれないと思った時点で、自分は結構まずいなと認識した。
これは愛着を持たれているのだろうか。報われているのか。深く考えたら落ち込みそうなので意図的に止めた。自分の名前を採用してくれたことを良しとしよう。しかし複雑な気持ちは残る。何でタマ。何で近所の猫。しかもノラなのである。そこまで来たらもう「玉」で良いじゃないか。そんなことされたら自分だって何か飼っての名前を付ける勢いである。
…少し譲って、「陽玉」とかでも良いんじゃないかと、思った。思ったらキリがない。

「…もう少し考えて付けられないんですか貴方」
「だって近所のノラだし」

ノラに自分由来の名前を付けたのに何なのかその対応は。とりあえずどうでも良い人間の名前から取ったみたいな言い方は止めてほしい。辛い。
は玉のことなんてお構い無しに、そのまま喋り続ける。

「もしも自分で飼うとしたらもっと良い名前付けるよー。ノラは病気持ちかもしれないから、飼えないけど。そうだなー、もしも玉みたいな猫を飼えたら…うーん、タマちゃんも捨てがたいけど、アレだね。…『陽』。陽玉は玉が嫌がってるから、陽。太陽の意味合いもあるから、良いかもね」

まあ飼う予定ないから未定だなー。そう笑っては続けた。
笑うを尻目に、玉は体中の温度が上がっているのを感じた。何ていう不意打ちだ。
もしも自分が何かを飼ったら、どういう名前を付けようか。からの字を貰って、どういう名前を付けたらいいだろうか。愛しくて仕方なくなるだろう。からの名前を取って付けたと言えば、彼女は嬉しそうに笑ってくれるだろう。そういう人だ。
真剣に、何か邸で飼おうかと考え始めてしまう玉だった。



10/06/02
ターマちゃーん。
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