二人始めての夜

ガチガチに緊張して、寝台で待っていたのはずっと恋焦がれていた相手。
既に顔は赤く染まっていて、手を強く握り締めて膝の上に乗せて待っていた。…何というか、まあ。

(何でこんな、可愛らしいのか)

思わず本音が口から出そうになった。多分可愛いと言えば、今以上に顔を赤くさせるのだろう。
湯浴みを済ませて未だ少し湿っている身体をそのまま、冷ますこともなく玉は寝台に向かう。は視線を合わせたり逸らしたりしてせわしない。腰が引けることもなければ泣きそうな様子もないので、逃げることはないだろうと思った。まあ、今日という今日は逃がす気もないけれど。
今日逃がして、いつと肌を合わせるのか。玉は誰ともなしに問う。
ゆっくりと、寝台に腰を置いた。重さで少し軋み、との距離は本当にあと少しだった。それでも彼女は逃げないし、もう目を逸らしはしなかった。

(ああ、今日、やっと…)

やっと彼女を手にできる。
ただの独占欲だった。もう祝言を挙げて彼女は正真正銘自分の嫁になったのだ。何年越しの想いなのかなんて考えたくもないが、やっと彼女がいつ何時でも自分の隣に立つことができる立場になったのだ。隣に立てば手を引くことも、自分の傍に寄せることも、自分の相手なのだと主張することも、できるのだ。それが、ああ、やっとその位置が、手に入ったのだ。何て幸せなのだろうか。
そうして、今日この夜に、彼女の身体を抱くことができる。
緊張してるのはだけではなく、玉だってそうだった。別に初めてではないが、それでもやはり夫婦となった初夜は、何となく今まで経験したこととは違うような気がして緊張した。相手が違うからだろうか。だが自分の一番最初の経験よりもある意味緊張しているかもしれない。
多分、恋焦がれていた相手で、やっと手に入ったから。
こういうモノのような言い方はあまり好きではないが、でもやはり表すなら彼女を手に入れることができたからだと、玉は微妙に冷静な頭で考えていた。

「緊張してます?」

当たり前のことを聞く。だが、彼女の言葉できちんと聞きたかった。強がりでも良い。否定でも良い。だが彼女の言葉でないと駄目だと思った。

「…して、る。凄いしてる。…宴会のときから、凄い、ずっと」

は握り締めていた手のひらを開き、今度は両手をもじもじと弄りだした。ぼそぼそと呟いて、視線を手に向けている。
夜でも顔が赤いのかよく解る。彼女はこれからもっと赤くなるのだろうか。それを見ていくのもまた楽しい。
玉は更に寝台の中央に寄れるように深く腰掛けた。手を少し伸ばせば直ぐにに届く。今だって、少し伸ばして直ぐにの手に触れることができた。
そのままの両手を自分の両手で包んだ。…小さくて、細い。
指を撫でながらの手を包み、玉は顔をに近づける。額が合わさるほど近くに寄り、何となく声は小さくなった。

「…私もです」

そう言うとの纏う雰囲気が、少しだけ和らいだ気がした。視線を合わせて、そのまま額ではなく口を近づけて、との最後の距離を埋めた。



11/09/28
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