母親は強い

「(最近、ちょっと)」
「ハイハイ、良い子良い子」
「(最近幾らなんでも、構いすぎやしないだろうか)」

玉は寝室で我が子をあやしている妻を見て、そう思う。自分が蔑ろにされているのだ。いや、ちゃんと構ってくれているけれど、我が子の方が優先度が高かったりする。ちょっとだけ「え、それってどうなの」と思わなくもない。
いや、子どもをきちんと育てるのは良いことなのだが。良いことなのだけれど、構いすぎもどうなのだろうと思うのだ。決して寂しいとか悔しいとか人肌恋しいとかそんなことは、決してない。談じてない。

「(く、しかし何を言っても駄目な気がする…)」

母親とはそういうものだ。今までの彼女の子どもへの接し方を見ていれば解る。自分の言ってることが、後回しにされるに決まっている。それくらいは解る。自分だって多分そうする気がする。
我が子はまだ歩くことすらままならない。人見知りはし始めたが、母親だけに懐くわけでもなく、父親の自分にもきちんと抱かれるし泣くことはない。笑いかけてくれたときは本気で幸せになれたこともある。
しかしまあ、それでも妻が取られっぱなしも悔しいわけで。
苦し紛れに玉はちょっとだけ呟いてみた。

「……貴方は、…本当にその子に甘いですよね」

言外に甘やかしすぎと、ちょっとだけ思ってることを何重にも包んで言ってみた。自分ももっと構っても良いんじゃないかと、思うけれどそれは自分自身の高すぎる矜持的に言えなかった。
その言葉に、我が子を寝かしつけた妻が振り返る。何を言ってるのだろうという、顔で。

「当たり前よ。私の子どもで玉の子どもだもの。あと、…うん、玉に似てるからね」
「………」

母親の顔をしながらそう言ってくる笑顔にほだされて、玉は結局今日も甘えるなんてこと、できなかった。



10/09/27
拍明か玉か迷ったんですが、拍明は何故か言いそうにないなあと思ったんです。
玉はすんごいプライド押さえつけながら言ってみると思います。それでも撃沈。
この二人は甘えるってこと、多分苦手。それも可愛い。
子どもに取られて悔しいけれど、子どもと一緒に居る奥さん見てても可愛いから畜生どうしようと思ってる。
日記ログでした。
Page Top