髪の毛を結ってくれる好きな人

工部侍郎という肩書きを持つ欧陽玉は、いつもいつも、飽きもせずに毎朝の髪の毛を結っている物好きな男だった。
不器用なは何とか毎朝自分で結ってはいるのだが、器用で美的感覚に優れている玉からは毎回駄目だしを食らっていた。及第点すら未だ遠い。
はとにかく髪結いが苦手だった。ずっと腕を上げているのが辛い。鏡を見ても左右反対でどうなってるのか解らない。考えてる通りに何故か腕が動かなくてイライラする。そもそも結えても真後ろがきちんと自分では見えない。どうしたら良いんだ一体。そんな気持ちでいつも軽く結んで放置していた。下ろしているのが悪いということもないので、自分が楽なようにしていた。

そんな自分が見ていられないようで、玉は何故か毎朝のようにの髪の毛を結いに来る。
最初は玉の気まぐれからだった。いつも髪の毛を下ろしているを見て、似合う髪形を結っただけだった。それなりの髪質で、長さも結構ある。それなのに結わないが不思議だった。結い上げればまた印象が変わるのに何故やらないのかと思って、自分がやってみせた。
その後劇的に不器用なの腕前を知って、玉が髪の毛を結う頻度がどんどん上がっていったわけである。気づいたら何故か毎朝邸に来ての髪の毛を結っている現状だった。謎な経緯だが、としてはやはり女なので、綺麗に結われる髪の毛を見て喜ばないはずがない。
玉に髪の毛を触られるのが、は好きだった。

「…ここ、こうして」
「逆です」
「え、こう?」
「そう」

何故だか玉の髪の毛で練習をするようになった。それもは楽しかった。髪の毛を結うのは苦手だったけれど、玉の髪の毛なら何とか頑張れた。玉の指導も良かったかもしれない。
けれども自分の髪の毛を結うのは、壊滅的に下手糞だった。やはり見えないというのが一番辛い。
玉の髪の毛だったらそこそこ、上手くはできるのだけれど。女のくせにこういうのが駄目なのはどうなのだろうと、の悩みというか、欠点だった。
玉の髪の毛で練習した後、今度は玉がの髪の毛を結い上げる。
自分とは違って迷いなく、その日の着ているものと簪とを考えながら玉は毎日違う髪形を作り上げていく。毎度毎度、凄いなあとその作業を鏡越しに見ていた。玉のこういう真剣な顔を見るのも、は好きだった。
それ以上に、玉に髪の毛を触られるのが、は好きだった。いつからだろうか、玉に触られるのが一番気持ちよくて好きだと気づいたのは。

「玉に髪の毛を触られるのが、一番好きだよ」

髪結いが終わって、感想を言って、思わずポロリと出た本音。少しだけ止まってしまった玉を見て、ああ失敗したかもと、は思った。
それでも感謝の意と、この感情を言葉にしたらこうなってしまった。まごうことなき本心だった。
他の男の人だったら、髪の毛なんてこんな毎回触らせないし、そもそも邸に毎日上げたりもしない。こうやって毎日顔を合わせて、話をするだけでも自分の気持ちには気づいていた。
だからと言って男性をどんな風に口説けば良いのかなんて知らなかった。だから、気持ちを込めて言葉を紡ぐ。好きな人だと、気づいてしまったから。

「玉にこうやって綺麗にしてもらえるの、私好きよ」

だから、は今日も玉にこうやって言葉を贈った。
この気持ちに気づいてくれたら、それこそ幸せで嬉しいなあとは思う。だって毎日邸に来てまで髪を結うなんて、そんな解りやすい行動、気づかないはずがないから。



12/04/21
玉のヒロイン視点って書いてないなあと思って。
おい玉お前バレバレやぞ。しかも気づいたら玉がものっそ鈍いだけの男になりました。
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