やさしい音をぜんぶあげるよ

20万打御礼企画

「玉の音って何だか意外」
「感想を言うならもっと的確に言いなさい」
「…うーん、何かこう、想像と違うというか。何か意外と、優しい音を出すよね」
「…」

琵琶を弾く玉は持ち前の精神力で何とか手は止めずに、の顔を見た。
そこまで芸に関して詳しくもないの、その発言が玉には意外で思わず手を止めそうになったほどだった。成る程欧陽家に付き合える程度の家なだけはある。耳は確かだろう。

「その発言の方が意外ですね。…にしては、よく聞き分けできていると褒めてあげます」
「え、嘘。じゃあ自分で解っててそういう音出してるってこと?」
「そうですよ」
「ええー…そっかー意外だなー。でもこの曲でこの音も良いね」

素敵、そう言っては玉に向かって微笑んだ。
その顔を見て、玉は自分の想いが伝わっているような気がした。琵琶を弾く手はまだ止めず、変わらぬ優しい音をつま弾く。
弾いている曲は恋の曲。恋人を強く強く想う、甘いながらも激しい恋を綴った曲。激情的な音を奏でる演奏家が多い中、玉は敢えて優しい音を彼女の耳に届ける。
多分どんな曲を弾いても、このような優しい音になるのだろう。彼女へと贈るためならば。
それは演奏家としてどうなのかという話だが、玉は官吏だ。そして今この瞬間はの夫だ。ただそれだけだから、どのような曲でも玉の好きなように弾く。彼女に贈るための曲。ただ彼女に安らぎを与えるためだけの時間。それで良いと玉は思っている。彼女が喜ぶのなら琵琶くらいいくらでも弾くし、横笛だろうが琴だろうが二胡だろうが彼女が所望するなら披露してやろうとも思っている。
ただただ甘い、恋の曲。玉はその恋の曲を、誰よりも今近くて愛しい人のためだけに弾く。



13/08/28
20万打御礼企画
群青三メートル手前様から
君酔二十題 04. やさしい音をぜんぶあげるよ
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