一碧万頃

「見て珀明、綺麗」

どこまでも続く海を見ては口を開いた。海風が吹く中、髪が乱れるのも気にせず彼女は歩いて行く。
自分も結構勝手に何処かに行くが、彼女も自分と変わりない。こうやって一緒に居るのに先を歩く。女性らしく半歩後ろに下がって歩くとかないのか。…無いか。だから多分それは無い。これが他の貴族と一緒なら解らないけれど。空気が読めないわけではないから、まあその時になれば、世間一般で言う出来た嫁を演じてくれるのだろう。ちょっとそれもそれで怖いと思った。
青々とした海と空を見て、は笑っていた。

(もしかしてコレはあれか。の方が綺麗とか言うべきなのか)

そういう流れなのかもしかして。自分の柄じゃない。心の中で思っていても無理だ。
そんなことを考えているから相槌を打つ時機すら逃した。何たることだ。一緒に居るのに会話が出来ていない。
ほんのり頬が熱を持つのを感じ取る。こういう時自分は色恋沙汰に関して経験値が少なすぎる。他の女を捕まえようとも思わないが、男としてちょっとだけ気後れのようなものを感じた。に不満を持たれたくないから、こういう時だけ経験や実体験が欲しい。
当のは気にせずやはり前を歩いていった。空も海も青い。言うならば青だった。昼間だから藍のように深い色ではなく、水色のように薄くはない。これは言うならば。

「珀明の色みたい。ね」

…言われてしまった。
言うならばそう、多分、碧海。布で表す碧とはまた違うけれど、この広がる風景を表すなら、青々として広がる碧海なのだろう。
自分自身が思っていたことを、あっさりと彼女は言い放ってしまった。これだから自分は…と思ってしまうのである。彼女は自分と同じ考えを持ったりするのに、自分自身は彼女が何を考えてるのかあまりよく解らない。彼女に何を言えば喜ぶのかも正直解らない。本気で経験値が欲しい。
陽射しはそこまで強くないのに、頬が熱い。いっそのこと真夏のように暑ければ良かったのに。
こちらを向いたに、珀明は仏頂面で答えた。

「…今はもう、の色でも有るだろう」

そう言ったら何故か彼女は笑った。…何なんだ。逆に自分は笑顔になれなかった。何故か悔しい。
仏頂面に拍車がかかり、珀明はから視線をそらして、また海を見た。

青々と広がるその色は、今はもうも見に纏ってる、碧の色。



10/02/14
一碧万頃。いっぺきばんけい。海などの水面が、はるかかなたまで青々と広がっていること。
結婚したからと言ってその色を身につけられるか解らないんですが…。
矜持が高いので他所からの嫁さんとかには家名はやっても色はあげなそうなイメージが有ります。
直系の嫁さんなのに下位な色しか身につけられないとか。
解らないまま書きましたすみません。
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