黄昏に染められた部屋

気付いたら、寝ていたらしい。はまどろみながらゆっくり瞼を持ち上げる。酷く億劫で、開けたは良いがまた閉じたくなる。眠い。寝ていたのに眠い。

「…ようやく起きたか」
「……珀明?」
「寝すぎだろう幾らなんでも」

寝るのが好きでも、最近のは行き過ぎだ。過剰な睡眠の取り方をして、心配してしまう。病気なわけでは、ないらしいが。
これ以上酷くなるようなら、本格的に仕事が手に付かなくなる。その前に何とか健康体に戻ってほしいところである。心配でしょうがなかった。難病とかだったらどうするんだ。さっさと医者を呼んでおけば良かったと今更ながらに後悔している。

「…んー、大丈夫」
「じゃないだろうがどう見ても」
「ううん、平気なの。病気じゃないわ」
「どこがだ!」

思わずカッとなる。自分の睡眠時間は少ないから、の睡眠時間が多いのは当然だが、幾らなんでも平均よりも寝すぎだった。何か毒でも盛られているのではないかとも勘ぐってしまう。好いた相手が、そこまでの体調不良を来していたら心配するのは当たり前だ。はそこら辺解っているのか。

「あんまり大声出さないでよ…。…それよりもね、珀明。私さっき夢を見たの」
「…は?夢?」
「そう。幸せな夢だったー」
「………そういう、ちょっと不吉そうなこと言うのは止めろ」
「不吉じゃないって。寧ろ幸せな夢だったのに。でも確信が持てたから、明日お医者さんにかかってくるわ」
「遅い!もう僕が呼んだ。そろそろ来るはずだ」
「え、せっかち」
「何処がだ!こんな状態で過ごさせてた僕が言えるほどでもないが…遅すぎるだろう!手遅れだったらどうするんだ!」
「大丈夫よー」
「何の根拠でそんなことを…!」

本格的に切れそうになった珀明を見て、は笑った。旦那様はせっかちだ。
隣りで立っていた珀明にちょっと屈んでもらうように手招きした。訝しがりながらも、腰を曲げた珀明へと手を伸ばす。
珀明の頬は、温かい。は珀明の顔に両手を沿えた。

「大丈夫。お医者さんも笑顔になってくれるわよ」
「だから!何の自信だそれは…!」
「んー、母親としての勘?」
「何処の誰が母親なんだ、お前いい加減、に………母親って、お前のことか」

そう言われて、はまだ眠たくて重い頭を何とか動かした。縦に頷くを見て、珀明は頭が真っ白になる。

「…は、え、…はあっ!?」
「まあ、今日お医者さんが来てくれるなら直ぐに解るわよねー」
「ちょ、、え。…本当なのか?」

思わずまた聞いてしまう。今度のは微笑むだけだった。
珀明は動転して何が何だかよく解らなかった。…でも、そういえば最近寝すぎなほど寝ていて、柑橘系をよく食べていた気がする。……寧ろ何で、気付かなかった自分。病気じゃなくておめでたな兆候じゃないか。自分でもそうやって思ったら、一気に肩の力が抜けた。抜けた拍子に、そのままを抱きしめる。

「信じた?」
「最近のお前の食べ物とか考えてたらな…確かにそういう感じだった。というか、病気と思うよりもそうやって考えたほうが心労的に楽だろう」
「あはは、そうかもねー」
「お前…」

結構どころかちょっと仕事が手に付かないくらい心配した自分の時間を返してほしい。畜生。でもそういうことなら良かった。まだ医者に何も言われてないが、こうやって自身がそう感じてるし、最近の行動から見ても多分間違いないだろう。…色んな意味で、良かったと珀明は思う。

「こういうとき、どうすれば良いんだろうな。……あ、お前!毛布も掛けないでこんな所で寝て!自分の身体のことが解ってるならもっとしっかりした行動を取れ!」
「あー、うん。そうだねー」
!」

怒鳴りながらも心配してくる珀明の声を聞いて、は先ほど見ていた夢をまた思い出していた。そんなに遠くない、家族みんなが幸せな夢を。



10/10/11
君を想う5つの情景
04 黄昏に染められた部屋
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