言葉を奪われる虹

「虹のふもとには、宝物があるとよく言いますね」
「そうですね。柚梨様も、そんなこと考えるんですか?」
「ええ、そりゃあもう」

あの大空に時折見せる色とりどりの現象は、足を止めて魅入ってしまうほど儚くて美しい。いつ消えるかも解らず、またいつ出てくるかも解らない。小さいものも大きなものも有るから不思議だ。角度によっても見れたり見れなかったりするので、目を凝らさず自然体のまま綺麗なものを見れたときは中々感動する。
そうして、その儚さと美しさ、決して手が届かないことから、ふもとには宝があるなんて言われるのだろう。
そんなこと無いと解っているけれど、もしも辿り着くことができれば、それはとても素敵な宝が眠っているのだろう。
けれども、景柚梨にとっての虹は自然界に気まぐれで出てくる本物のことではない。

「届くことができないからこそ、虹は綺麗と言われてるのかもしれません。だから、そのふもとには宝があるのだと」
「それはそうかもしれませんね。もしも辿り着くことができれば、それこそが宝になるかもしれませんし。ずっとその虹を見ていられるって、現実的に凄い羨ましいですよね」
「ふふ、そうですね」

柚梨は笑う。目の前で微笑みながら、お茶を飲むこの虹は、雨の日でも晴れの日でも、雪でも雷でも、いつもいつも綺麗に儚く美しい。欲目を入れてその評価だ。景柚梨にとっての虹は彼女で、彼女の傍に居られることが宝物だ。
いつか、…できればそう遠くない未来で、ずっと一緒に居られることができる一生の宝物を、彼女から貰えることができればなあと、柚梨は一人心の中で思っていた。

柚梨にとって、目の前の虹は一生消えることはなく宝を示し続けている。



10/07/03
君を想う5つの情景
01 言葉を奪われる虹
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