「おや」

想い人から白薔薇を渡された。もう少し置いたほうが見ごろが来るような、少々惜しい時期の白薔薇だった。
だが確かに綺麗に咲いている。
白が重なり合っている部分は薄くピンクにも見えるような、美しい白い薔薇だった。自分の宮で作っているものを勝手に持ってくる女性ではないので、街で買ったか、どこかに咲いていたものだろうか。
毒を持つ自分も、その自分が育てている薔薇にも、彼女は物怖じしない。そんな女性がいたら好ましくなるなんて当たり前だろう。四季折々の花をことあるごとに渡しているのだが、その度に毒を怖がるわけでもなく、嫌な顔をすることもなく、笑顔で受け取ってくれる彼女が何と愛しいことか。
彼女から貰えるなら雑草でも意味を見出すと思うが、まさかこの色の薔薇を手ずから貰えるとは。アフロディーテは驚いて声を出してしまう。

「白薔薇とは」
「す、すみません。でもとても綺麗だったので、あの、お似合いだと、思って」

やはり赤い薔薇を持つアフロディーテ様のほうが素敵だとは思うのですが、などと続けられた。
そういう意味で言ったのではないのだが、想い人から似合うだの素敵だの言われて嬉しく思わない男はいない。というか謝らせてしまった自分の言動が迂闊だった。

「嫌なわけではないよ。ただ、そうだな。あまり他の者にはあげないほうが良い」
「え?」

白薔薇をから受け取りながら続けた。彼女は不思議そうに首を傾けている。
その無垢なところが、自分よりも白薔薇が似合いそうだと常々アフロディーテは思っている。自分が彼女に贈るのなら深紅の薔薇だが、彼女に似合う薔薇こそ真白い薔薇だろう。
だが彼女はアフロディーテこそ薔薇を持つに相応しいと声を大にして伝えてくる。そこも可愛らしいとやはり常々思っている。デスマスクには盲目すぎると言われたことがあるが、素直になれないアイツよりも自分のほうが全てに置いてマシだと勝手に思っている。
こうやって自分の好きな物と共にいることを褒めてもらえるのは嬉しいのだが、今回のこの色を男に渡してくるのは少々いただけない。他の男には渡さないように自分の口から白薔薇の持つ意味を伝えた。

「私はあなたにふさわしい」
「えっ?」
「花言葉だ。私だけに、くれるのなら良いのだがね」
「……!?」

口を開けながら真っ赤になって止まってしまった彼女は、やはり白薔薇に相応しい。



白薔薇の花言葉

純潔・純粋、私はあなたにふさわしい、深い尊敬



「花を贈るのも、贈られるのも、アフロディーテ様にしかしません」と、小さな声が聞こえてきて思わず薔薇を持ったまま抱きしめてしまった。
自分が渡すのならば深紅の薔薇だと思っていたが、彼女に白薔薇を贈るのもいいかもしれない。



23/06/17
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