さりげない愛を君に

「えっそんな気にしなくても構いませんでしたのに」
「それはこちらの気持ちの問題だ」
「そうですか…有り難く戴きます」

最近探していた書物をこのが見つけてくれて、感謝の印にささやかな物を贈る。何を贈れば良いのか、店を回りながら悩みに悩んだ。自分の気持ちに従って贈れば相手からは重たすぎると思われるだろうし、だが中々手に入らなかった書物を見つけてくれた感謝の気持ちは伝えたい。
重すぎず、かと言って自分の気持ちも込められる物。

「開けても大丈夫ですか?」
「ああ、構わないが…ささやかな物だから気に入らなかったら捨ててくれ」
「いやいや」

会話をしながら彼女は封を開けた。ささやかで、自分の気持ちに従うには慎ましい。けれどもどうにかこの感情をのせたかった。

「…ブックマーカーですかね?」
「ああ」
「うわあこんなしっかりしたやつ初めてです…!」

本屋で買ったときに付いてくるペラペラした紙の物しか使ったことがないですと、は続けた。
一度だけでも良い、使ってくれればそれで良かった。捨てられても構わない。諦める気はないからまた何かにつけて贈れば良いだけだろう。一度だけでも良いから使って、自分のことを思い出してくれれば、今回はそれで満足だった。

「凄い、しっかりした物はこんなにも造詣が細かいんですね…赤い薔薇の、ブックマーカーなんて…あっ、美女と野獣みたいです」
「ああ…ラ・ベルか」
「ラ・ベル?」
「フランス語で美女という。美女と野獣はフランスの話だ。美女をラ・ベル、野獣をラ・ベートと言う」

ラ・ベルと名高いヒロインに求婚したラ・ベートの話だなと続けた。確かにこの話は薔薇が関わってくる。言われて気づいたがこれはこれでピッタリだと思った。自分が野獣かはともかく。

「じゃあベルって本名ではないんですね」
「そうなる」
「へえ~」

そう相槌を打ちながら彼女はブックマーカーを透かしたり裏返したりしていた。…気に入ってくれれば、嬉しいとは、思う。
本物の赤い薔薇を贈るときがいつか来るようにと、思いながらカミュは静かに微笑んだ。



18/12/31
Page Top