「構うな」

冷たく徹した声でそう言われる。この人は自分自身を殺してしまう術を身につけてしまった。それはしょうがないことで、そうしないと生きていけなかったのだろうとも、思う。それは理解できるつもりだが、だからと言ってこの人の傍を離れる理由にはならない。それが例え本人にこんなにも冷たい声で酷いことを言われたとしてもだ。

「構っているわけではないんだけど」
「…獅子宮に、もう足を踏み入れるな」

昔は来るだけで嬉しそうな顔をしていたというのに、あの素直な彼はどこに行ってしまったと言うのだろうか。逆賊の弟の彼は、兄が大好きだった彼は、任務をこなして誰よりも真っ直ぐ規律正しい黄金聖闘士でいなければいけなかった。それでも風当たりは強いし銀聖闘士以下にすら色々言われることもある。まあ彼の人柄が良いのでそんなことを言う者も極一部なのだけれど。
この人は、その経緯から人に優しくするのは誰よりも上手いのに(特に年下の男の子相手は何故だか手馴れている)、人を気遣うというのは上手いのか苦手なのかよく解らない。気遣われているのだろうけれど、これは自分相手では気遣いだなんてとんでもないしただの悪質な悪戯だった。
アイオリアから離れるだなんて、とんでもない。

「とりあえず理由は?」
「……」
「ないなら、私はまた好きなときに逢いに来るよ」
「…。君の、…立場が、悪くなるだろう」
「逆賊の弟だからって言うのも無し」
「…ッ」
「残念なことにね、リア」

私は逆賊の弟として生きて頑張っている貴方を好きになってしまったのです。

「……、」
「というか逆賊の弟のレッテルがあったから好きになった部分もあるにはあるので、別にそれ私を突き放す理由にならないよリア。そんな適当な想いで貴方の隣に立ちたいと思ってないよ」

目を伏せる彼は誰よりも色があってセクシーだ。あの美しさぶっちぎりのアフロディーテ様ですらこの色気には敵わない気がする。今のアイオリアはそんな顔をしている。
切なげに目を細めて伏せている姿は、正直ゾクゾクする。その顔で自分を見て抱きしめてくれるなら、言っちゃ悪いが貴方は逆賊の弟のままでも良いと、そう思っているなんて流石に言えなかった。
何を考えているのかは流石に解らない。何故兄が逆賊になったのか?何故自分はアイオロスの弟なのか?何で自分は黄金なのか?何故しか出てこないことばかりだろう。それでも良いと私は思っている。アイオリアはアイオリアだ。黄金聖闘士、獅子座のアイオリアだ。

「っていうか、心外なんですよねアイオリアさん」
「…!?」

普段使わない「さん」付け呼びやら敬語やらに驚いたらしい。伏せていた目を見開いてこちらを見てきた。やっと目を合わせてくれたので、そこに少し満足する。

「私はね、逆賊だろうと何だろうと獅子座のアイオリアの傍に居たいと思ったからここに居るんですけどね。流石に私の決意をそんな勝手に壊そうとするのは許せないわけですよ。アイオリアさん」
「………」

身じろいだアイオリアを見て、挑発的なことを言いながら自分の両手を広げた。

「覚悟がないのはアイオリアでしょう」

私はもうできているんだからと、言えば彼は少しだけ驚いた後久しぶりに泣きそうな顔で笑った。



14/08/04
覚悟ができてからのリアは優しい抱擁ではなくきつく彼女を抱きしめる。
お題:LUCY28
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