女神は全て許している

01

彼女は芯の通った魅力的な女性だと、私は思っている。

仕事はきちんと行う。その上細かい気配りまでしてくれる。彼女の淹れるコーヒーは私の好みを1回で反映してくれた。自分で砂糖を入れることも、ミルクを入れることもなくなった。季節ごとに花瓶に花が生けてあるのも最近になってようやく気づいた。女官がやってくれていると思っていたのだが、重要な書類のある部屋の掃除は任せていない。彼女が掃除も、花瓶に花を生けるのもやってくれていた。そんなことにすらしばらく気づかずに甘えていた。
書類はきちんと整理してくれて、必要な物品も解りやすく揃えて片付けてくれる。休憩を忘れがちになる私に対して控えめながらもきちんと休憩を促してくれる。休まなければ効率が逆に悪いと、軽い小言を言いながらだが。
私の立場に対してでもきちんと言ってくる度胸は凄いと、思っている。彼女は自分自身の立場が悪くなろうが関係ないようだった。もちろん私に何かを言っただけでどうにかするなんてことはありえないのだが。過去の罪もありながら教皇補佐に就いている私に対して何も言えない部下たちが多い中、彼女は年も近いせいかあまり関係なく言ってくる。まあ黄金たちや青銅の星矢たちは別だからそこまで珍しいことでもないのだが。正直な話、色目を使ってこないのが一番有り難かった。
ここまで考えて彼女は女官か何かと自分自身で考え込んでしまう。こんなにも雑務をしてくれるのに黄金以下、聖闘士の誰よりも書類を出すのが早い。しかも正確だった。計算関係も報告書も、彼女のものが一番正確で早く、読みやすいものだった。実は黄金の書類が中々に読みにくかったり要所要所をかなり省かれていたりして書類として及第点も与えられないものが多い。悲しくなってくる。
というか彼女は本当に人間だろうか。ここまで考えると仕事量が半端じゃなくなる。だからこそ私の秘書兼補佐兼雑用係のようなことになっているのだが。正直な話自分と同じかそれ以上の量の仕事をこなす人間がいるとは思わなかった。アイオロスですら書類関係では私よりも遅い。というか性格の違いなのかあいつの書類が中々に大雑把で困ることが多い。それを解読する彼女も凄いしだからこそ頼りにしてしまうわけで。
本当に申し訳ないと思いつつ、彼女がいないと色々と困ることになってしまう。聖闘士の仕事は減ることがなく増える一方で、書類仕事が苦手な人間が多い中彼女のような存在は本当に有り難いからだ。私が頼りにできる人間がいるということがとてつもない。デスマスクやアフロディーテですらそのことに驚いていた。

仕事だけでなく、女性としても素敵な人間なのだと、疲れてるときに貰うコーヒーやお茶菓子を口に含みながら思う。
休憩時間の度に、というわけでなく小腹の空いてくる時間をきちんと理解して渡してくる辺り身体のことを気遣ってくれているのだろうと感じる。最近デスクワークばかりのせいか身体がたるんできているのを気にしているのがバレているらしい。いやきちんと鍛錬もしているのだが他の聖闘士達に比べるとどうしても最近の運動量が目に見えて減っている。しょうがないのだが流石に気になる。
そこそこ甘い菓子も食べるが、甘すぎるものは好まない。書類仕事だから食べかすがボロボロ出るようなものもあまりよろしくはない。それを理解して選んでいるように思う。
何と言うか、ここまで自分に合わせられる女性がいるのかと驚いた。本当に驚いた。何で今まで気づかなかったのかと最近思う。教皇の頃に気づいていたらもっと楽だったかもしれない。(仕事の話だ)

彼女の仕事ぶりは黄金達なら全員知っている。それほどまでに私の仕事を手伝ってもらっているからだ。あと書類関係に関しては私からの催促よりも彼女からの催促の方が多いせいもある。何せ私よりも下だが、他の黄金達よりも彼女の方が年上なせいか誰であろうと関係なく言葉を発していく。女性は強いといつも思う。
仕事においては私から何かを言うことなんて今じゃ全くと言って良いほど何もない。それほど素晴らしい仕事のできる女性だと思う。仕事中はそこまで笑う顔は見ないが、その分休憩中に貰い物の菓子を黙って二人で食べようなんて、可愛らしいことを言うときはやはり女性なのだと思う。
そういうときに見せる顔は、満面の笑みと言えないが何だか少し可愛らしいと思っているのは、流石に誰にも言えなかった。何せその顔は、多分私しか知らないだろうから。

「サガさん、この間対応した村の村長さんからお菓子を戴きました」
「謝礼も貰ったのに申し訳ないな」
「あんまり数がないんです」
「…言いたいことがあるのなら先に結論を言いなさい」
「二人で食べましょう」
「………まあ、たまには、良いか」

ああ、その顔。

(その顔が見たいから、許してしまうと、彼女は知らないのだろう)



14/04/04
Page Top