女神は全て許している

02

彼女の友好関係がどうなっているのかは知らないが、最近はアイオロスと仲が良いように見えた。
私の仕事だけではなくアイオロスの仕事も手伝っているのだから共にいる場面が多いのは必然だった。それでも私といる時間の方が多いとは思う。何せ書類の仕事は大方私に回ってくるからだ。
…そんな風に考えて平静を保つように努めているくらい、嫉妬をしているのだとは、一応理解はしている。
まさかこの分野でもアイオロスがライバルになるとは、思わなかった。

(いやアイオロスがどう思っているかは知らないが)

そもそも自分自身も色恋沙汰に現を抜かしている場合ではない。聖域の復興はまだ完全ではなく、しかも地上の平和は保たなければいけない。やらなければいけない仕事は減ることはなく、自分の罪も理解しているし女神が自分を裁かずにここに置いてくださっている恩もある。
罪人の自分が、誰かに恋慕を抱くというのは許されないことくらい解っている。
それでも。

(ああ、また)

また、共にいるのが視界に入る。
彼女から声をかけた場面が嫌でも目に付いてしまう。仕事の話をしているのも解る。書類の話なのも見てとれる。
それでも、彼女がアイオロスと共にいるのを見るのは辛かった。今でもアイオロスに劣っていることはないと思ってはいるが、彼には何か眩しいものを感じることもある。自分のどす黒い、ドロドロとした何かとは全く違う何か。それに彼女が惹かれていたら?それは自分が持っていないものだった。劣ることはなくても、その差は大きい気がした。
彼女も、また眩しい人だと、思っているから。

アイオロスが笑顔になるのが見えた。彼女の姿は後ろしか見えないが、彼女も笑顔なのだろうか。あの、眩しい笑顔をアイオロスに向けているのだろうか。
自分の見る彼女の笑顔を、アイオロスは何度見たのだろうか。それともアイオロスだけに向ける笑顔が、あるのだろうか。そんなことを考えれば胸が痛むのを確かに感じた。乙女でもあるまいし何と女々しいことか。カノンに指をさされて笑われてしまうことを考えているのは百も承知だった。

多分もう一人の自分だったら、教皇だった頃ならば。
ならば、自分は彼女を地位に任せて軟禁していたのではないかと、思ってしまった自分がとても嫌だった。やはり自分はアイオロスのようになれないし、彼女の笑顔が眩しく思えてしまう理由も気づいてしまった。
諦めた方が良いというのは解っているのだが想いがそう簡単に無くなることもないのだと、実感して書類にインクが垂れているのにようやく気づいた。



14/04/27
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