多分小説や映画で言うと、雰囲気の良い場面だったのだと思う。
そんな中で、やっとのこと彼女と口を合わせることができた。できたと言うのに。

弥勒はソレに当たった感触に気付いて気まずくなった。何と言うか、力を使うのはとにかく得意なのに何と言う様だ。
雰囲気が良いのに、初めて口を合わせるのに。歯が当たるとは何とも情けない。
思わず少し目が泳いだ。

「そ、の…。悪い」
「……」

彼女の肩に添えた手を離してしまおうかとも思った。何だか凄く怖い。
情けなさもあった。自分を情けないと思うなんて初めてだった。こんなにも微妙な気持ちだったのか。
女の扱いに慣れていないと言えば良いのだろうけど、何故か言いたくなかった。初めてだというのも彼女には知られているのだろうけど、それでも言いたくなかった。何故なのかは解らない。とりあえず今は情けなさでいっぱいだった。

そんなことを考えていたら、が自分の背に手を回してきた。
これも初めてだった。彼女にこうやって抱きしめられたのは、初めてだ。彼女は自分よりも小さくて華奢だ。服を着ているのに温かい温度が伝わってくる。自分の姉の笑顔を見たときのような気持ちになった。多分幸せだとか嬉しいとか、そういう感情なのだと思う。
なんて冷静に考えているが、実際はどうしたら良いのか全く解らず、ただただにされるがままだった。どうしたら良いんだこういうときは。抱きしめ返すのか?それとももう一回キスでもすれば良いのか?一体何をすれば良いんだ。
少しだけもぞっと動いて、は顔を上げた。いつもより顔が少し赤い、笑顔で。

「…わたし初めてなんだ。へへっ、何か、嬉しいなあ」
「!」

弥勒は一瞬だけ止まって、その後自分の腕も彼女の背に回した。



11/06/01
多分、これが幸せなのだと思った。
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