というのは中々に器量がよく、気も利く女だった。死々若丸でさえ、文句を言いながらも心の底では認めているほどに。
だからこそ周りの面々は不思議でしょうがなかった。何でが鈴木の相手なのかと。



、嘘吐かないで良いからね。本当のこと言って良いんだからね」
「はい?」

鈴駒が真剣な顔をしてにそう言い始めた。鈴木を除いた聞いている回りの面々も真剣である。
真剣に、何で鈴木とが想いあっているのかが謎なのである。

、鈴木に変なもの飲まされたりしなかった?栄養剤だの何だの言われて、何かピンクの液体とか飲まされたんじゃないの?」
「…?ええまあ。疲れているときとかは頂いたこともありましたが」
「ああああああああやっぱり!!!!!」
「鈴木ぃぃぃっっ!!!見損なったぞ!!!」

鈴木を除いた面々は揃って頭を抱えたり、鈴木に対して悪態を吐き始めた。どういうことだ、は訳がわからなかった。

と最近恋仲になった鈴木は、中々にエキセントリックな部分はあるもののそこそこ真面目で、そこそこ良い人で、結構優しい男性だった。男だらけで生活しているは鈴木に女性らしい扱いをしてもらって年甲斐もなくトキめいたりしていた。
いや、他の面々が女らしい扱いをしていなかったと言えば嘘なのだが、鈴木は言葉にきちんと出してくれるのだ。
「女の子はもっと男を頼って良い」だの「女の子なんだからこんなのは男に任せれば良い」だの「綺麗な指があかぎれたらどうするんだ勿体ない」と言いながら洗い物を代わってくれるだの。物凄い男女差別な発言にも聞こえるが、そう言いながら自分の身を考えて案じてくれたのは中々に嬉しかったり、した。
凍矢や鈴駒も重いものを代わってくれたりはするが、ここまで言葉に出すことは無い。(死々若丸に至っては荷物を更に押し付けてくる)
しかも洗い物で手が荒れたときは、よく効く傷薬を塗って手当てまでしてくれた。お手製の良い匂いのするハンドクリームまで後日作ってくれたのだから、の中で好感度が上がらないほうがおかしい。「良い人」から「優しくて気が利く気になる人」になるのに時間はかからなかった。寧ろ「良い人」から「気になる人」に直ぐ変化したようにも思う。
少々寝不足で目の下にクマを作ったときなんかは、美肌にも効果があるという栄養剤を作ってくれた。それは確かに鈴駒が言ったようにピンクの液体だった。どうやったらピンクになるのか少しばかり謎だが、結構飲みやすくて元気も出たし、次の日確かに荒れ気味だった肌がつやつやになる効能だった。の中では鈴木さんは自分なんかも気にして世話を焼いてくれるとても良い人で素敵な格好良い人、という認識になっていた。もしもこんな人と付き合えたら幸せになれるのだろうな、と思うほどに。

今現在その鈴木と付き合うことになっているのだから、の頭の中は春の陽気だった。常春も良いところである。常にお花畑でちょうちょが飛んでいるような気分だった。
そんな中鈴駒たちからの質問と叫び声は少々訳が解らなかった。鈴木さんが見損なわれるとはどういうことだろうか。
頭を抱えていた鈴駒や凍矢はハッとしたようにに向き直った。矢継ぎ早に質問をしてくる。

!その変な液体飲んでから鈴木のこと好きになったとか、そういうんじゃなく!?」
「へっ!?」
「寧ろつり橋効果じゃないか?ハンドクリームなんかを塗られてドキドキしたのを誤解してるんじゃないか!?」
「え!?」
、早まんないほうが良いだよ。鈴木の他にも良い男はたくさん居るべ?」
「え、い、いいえ。早まってはいませんけれど…」

でも前半の質問部分は大体あってた。何で解ったんだ鈴駒と凍矢は。あんな顔の良い男に甲斐甲斐しくされて、気にしない女もそうそう居ないだろう。手なんか握られてあかぎれの手当てをされるのである。百戦錬磨でも何でもないはドキドキしないわけがなかった。

「…鈴木のくせに惚れ薬はしっかり作れるのか…?く、が不憫で仕方がない…!」

凍矢のそんな呟きは鈴木のことを考えていたには届かなかった。
訳が解らないままその質問会はいつの間にか終わっていた。



「鈴木っ!!!正直に吐け、に惚れ薬でも使ったのだろう!?」
「見損なったよ鈴木!そんな奴だったなんて!」
さ貶めるなんて酷い奴だべ!」
「ふん、武術大会のときよりも手の込んだものを作ってるんじゃないか?」
「ぶるぅあぁっ!男の風上にも置けんぞ鈴木ぃっ!」

ぼっこぼこにされた後に、鈴木はそんなことを責められた。待て、順番がおかしい。そもそも何でオレは殴られててあらぬ疑いをかけられているんだ。
惚れ薬って何の話だ。

「ははは、男の嫉妬と僻みは醜い ぞぅっ!?」

最後まで言うことなく鈴木はもう一発殴られた。顔は殴らないでくれ!と頭の隅で思いながらも口に出せなかった。何でこんな弱いものいじめ宜しく多人数に囲まれないといけないのか。
と結ばれたのは自分の努力とアタックのお陰だ。そりゃあもう頑張った。目で追うだけだと彼女は気付かないので、恥ずかしいほど頑張った。意外と純情で初心な側の鈴木だったけれど、そんなんではには気付いてもらえないのが解ったので本当に、物凄い、頑張った。
寝る間も惜しんで女性に喜んでもらえるような栄養剤作ったり、匂いにも気を使ったハンドクリームなんて本気で好いた相手でないとやる気も起きない。目の前の野郎共の栄養剤なんか作れと言われたら味も気にしないし、寧ろ開発中の薬を混ぜる勢いだ。というか多分そうする。でもにそんなことは…絶対しないとは言い切れないが、いや、でも危険な薬は飲ませない。渡した栄養剤程度のものくらいだろう。

「大体、惚れ薬って何の話だ。オレはそんなことしてないぞ」
「はあ!?怪しい栄養剤なんかに渡したんだろ!」
「栄養剤…。ああ、寝不足気味のときのか?肌荒れも気にしてたからそういうのにも効果が出るよう配合したな」
「…ピンク色っておかしいだろう」
「いや、女子はピンク好きだろうと」

それは偏見じゃないだろうか。誰かが心の中で突っ込んだ。
しかしその偏見をやり遂げてしまったんだから中々凄い。

「…下心ありでの手に薬塗ったりしただろ」
「は!?…な、んのことだか」

これに関しては解りやすすぎた。まあそういう下心は理解できる。
しかしこの調子だとつり橋効果を考えてやったわけでは無さそうだった。変な所直線的な鈴木は、下心以上のことは持ちえてなさそうだ。
…つまり何か、もしかしなくても本当には鈴木が好きなのか。何でだ。

変な親心や保護者の気持ちを持っているせいか、何だかのその気持ちが事実だったとしても納得できなかった。いや、が本当に好いているのなら良い。良いけれど、正直に言うと、本当に正直に言うと、相手が鈴木なのはちょっとだけ不安なのだ。
まあ大事にしそうではあるが、今までの前科を考えると効果が解らない薬の実験体にされること請け合いである。
あと何故だか悔しい。と恋仲になりたかったわけでもないが、正直言うと鈴木に相手ができたことが一番ムカついた。多分この面々が必死になっている一番の理由はそこな気がする。気がするだけで理解もしてないし納得もしてない。そうだ鈴木に相手ができたことがムカつくなんてそんなことはない。

が本当に鈴木を好いた上で恋仲になったということが解ってしまい、鈴木以外は重たいため息をついた。
海よりも深くて、山よりも大きなため息である。何でコイツなんだ
鈴木も殴り終わったし、事の真相(?)も解ったので面々は渋々納得して鈴木の前から去っていった。殴られ損でしかないのは間違いなく鈴木だ。何でこうなった。おかしくないかこれは。

「…羨ましいのならそうと言えば良いものを」

頬をさすりながら鈴木は涙目でそう呟いた。ちょっとだけ負け犬の遠吠えに聞こえるのはどうしてなのか自分が問いたかった。おかしい明らかに勝ち組なのに。
しかしこれでに手当てしてもらう口実ができた。鈴木の頭の中もと一緒で常春で、常に青い空と白い雲、草花は綺麗に咲いてちょうちょは優雅に舞っている状態である。どこまでもおめでたい頭なだけだった。

鈴木はよろよろと立ち上がって、の部屋へと向かう。惚れ薬など使わずとも、愛しい人が自分のことを想ってくれるのは幸せなことだなあとニヤニヤしながら。



11/04/09
鈴木は惚れ薬作れても結局使えない子で、でも何故か媚薬は使える変態だと私は勝手に思ってます。
以下おまけ?


鈴木とが恋人同士になったということを聞いた最初の皆の反応。
「な ん…鈴木めとうとう惚れ薬を作れるようになったのか…!」
「作るのは男の浪漫だがそれを実際使うのは男が廃るだろうがよぅ!」
を実験体にして改造したんじゃねーべな?」
「恋仲は妄想でプッツンして手篭めにしたんじゃないの!?」
「アイツにそんな甲斐性があったのか?」


多分あのメンツはこういう反応してくれるんじゃないかなーと。鈴木の場合だけ。
コレ別に逆ハーじゃないです。鈴木に彼女が出来たのが皆信じられなくて許せない感じです。
それが自分達も知ってる女の子だから尚更この野郎って思ってるだけです。
皆鈴木大好きなんですよハハッ。
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