嵐山准には幼馴染がいる。

「へえ、羨ましいなあ」
「ええ……そうか?」
「ごっつ羨ましいわ。俺も女の子の幼馴染とか欲しかったなぁ」
「いやいや……片づけしないし、料理もうまいわけじゃないし、そもそも物心ついたときから隣同士だったから女子って感じがないんだよな……」

同い年で家が隣同士。相手は少々抜けており、夏休みの宿題なども手伝ったことがある。幼馴染というだけで世話をすることが何度もあったので、正直手がかかるとは思う。妹みたいとまではいかないが、だからと言って生駒が思い描いているような女子という相手でもなかった。可愛さで言えば自分の妹のほうが振り切っていると嵐山は思っている。
さすがに言えないが、目の前でオナラをされたこともあるし、何なら会うとき大体素顔なのでお洒落や化粧をしているときに会うと二度見してしまう。
嵐山の話を聞いていた柿崎は、嵐山の近くにそんな女子がいるのかと変に感心した。

「漫画みたいな幼馴染には感じないなあ」
「そんなもんか」
「そんなものだよ」

携帯を操作して、家族ぐるみで食事をしているときの写真を生駒たちに見せる。
このときは嵐山家で鍋をしたのだが、幼馴染はキャラ物Tシャツに中学のジャージで家に来た。もちろん素顔である。あと口にたくさん頬張る癖があるのでいつもハムスターみたいになっている。
そんなことも言いながら写真を見せていたら、生駒がマジマジと見て口を開いた。

「いや普通にカワイイやん」
「そうか?」
「カワイイやろ。ええ~ほんま羨ましい」

いつもの厳つい顔をそのまま、生駒がそう言うのを嵐山は少し驚いて改めて幼馴染の写真に目を落とす。
そうか可愛いのか。まあ妹の佐補の次くらいには可愛いとは思っているのでそう評されるのも当たり前かもしれない。

「なあなあ、ほんまにただの幼馴染なら俺に紹介してくれへん?」
「それは駄目だな」

即答だった。口を開かずにただその場にいた弓場もその返答に少し驚いて嵐山を見やる。

「おん……」

思わず突っ込みも忘れて生駒も普通に返事をした。嵐山から食い気味の拒否返答を貰ってちょっと気圧されてしまう。
柿崎が何とも言えない顔で代わりに突っ込んだ。

「……いや、ただの幼馴染なんだろ……?」
「うん。でも紹介は駄目だなあ」
「……それは……」
「相手が誰だろうと駄目だな。東さんでも駄目だ」
「…………」
「…………」
「…………」

その場にいた全員が何とも言えない顔になる。自覚があるのか、ないのか。それとも別の何かなのか。何か言いたいがどう聞けばいいのか解らず無言になるしかなかった。

「ただの幼馴染なのか……?」
「え? うん、幼馴染なだけだよ」
「あー、そうか。まあなら、うん、いや、えーと、まあ仲良くな」
「うん? ああ、ありがとう」


***


「……あれは何やったんや……」
「いや解らん」
「ありゃあ自覚して言ってんのか?」
「どっちなんだろうな」
「なんか嵐山の視線ちょい冷たなった気ぃすんねんけど、俺明日から無視されたりしいひんよな?」
「……」
「……」
「せめて何か言ってくれや」
「腹ァ括っとけ」
「覚悟はしといたほうがいいんじゃないか」
「ひどない?」

いつか彼女として紹介されるのだろうかと全員考えたが、それがいつになるのかは誰にも予想がつかなかった。



21/07/06
彼女として紹介されるよりも、その内いきなり奥さんとして紹介されると思われる。
ツイッタに上げたやつです。