とらわれる


気付いたら、雁字搦めだった。



「蜘蛛みたいな女だなお前」
「…は、」
「蜘蛛だな蜘蛛」

糸を出して巣を作り、その巣である糸に引っかかった生き物を餌とする。逃げようともがけばもがくほど絡まるその糸は、しなやかで丈夫。
捕らわれたと気付いたら、雁字搦めだった。飛び立つことも出来ず、いつ糸で更に絡められるのかと待つことしか出来ない。

「とても失礼じゃない?…何か、粘着質という意味かしら。気持ち悪いとでも言いたいの?」
「まさか」
「なら、一応女でも有る私に何で足が8本な節足動物で、それなりに気持ち悪がられてる生き物で例えたのかしら?」
「怒るなよ」

怒らないほうが無理だとは思った。とても失礼じゃないだろうか。自分は何か、食べ物を糸でグルグル巻きにするような女に見えるのか。

「見た目自体はまあ、そこまで良くは無いがな。…だが、蜘蛛が作る巣は、それなりに芸術品だとは思わないか?」

無駄のように見えて、かなり精密に作られているのが蜘蛛の巣だ。蜘蛛の巣に付く朝露は、中々に美しいと、揚羽は思う。
見方によっては人工物では無い分、かなり上等な芸術品であろう。人間では作り出せないものだ。

「…いや、よく解らないのだけれど…。私別に何か作ったりしないし」
「ああ、そういう意味じゃない」
「訳が解らないから」
「今は解らなくて良いさ」

自分だけが解っていれば良いと、揚羽は勝手に思う。
は蜘蛛だ。自分が、揚羽だから。
ふらふら飛んでいた自分を意図も簡単に捕まえて、気付いた時には手遅れでどうしようもない。

ちょっとばかし、立ち位置が逆の方が自分達の性別的に良かったかもしれないと、揚羽は思った。これはこれでまあ良いけれど。
自分が蜘蛛だったとしても、彼女が捕まったかも怪しい。
彼女が蜘蛛だ。蝶である自分が捕まったのなら、それが良い。

が蜘蛛で、自分が揚羽。