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に対して、一人は失敗をした、と思うことが多々ある。

「全員親なしか片親なんだよ」

そう言われて、一人は何も言えなかった。のことが心配で口を出したのに、失敗をしたと、そう思った。
自分が言いたかったのはそういうことじゃない。そう思っているのに、口に出てこないし取りつく島もなかった。明確に拒絶をされているのが、その日そのとき、ハッキリと解ってしまった。

「こっちも一人に近づかないようにしてんだから、無理に関わらなくて良いって」

鈍器で殴られたようだった。妙にその言葉は耳に残った。

小学生の頃は、は一人の横や後ろを付いて来る子どもだった。中学に入ってから、ちょっとずつ距離が開いて行った。思春期と言うものもあるし、そのときは別に一人も気にするほどでもなかった。よく診療所に来ていたのが減っていったとか、一緒に帰っていた数が減ったとかその程度であり、学年も違えば性別も違うのでそこはしょうがないだろうと、一人は思っていた。
母親はを診療所に連れて来いと言う。女独りであの家に居させるのも可哀想だとよく呟いているのは耳にしているので、時おりを誘うがあまり反応は良くない。
イシさんが言うと来る、その程度になりつつあった。
それも高校に入ってからは、明確に頻度が減って行った。村の集まりがあればそれには顔を出すが、が自分の意思で診療所に来ることはほとんどゼロになっていった。
避けられている、とは思った。自分が避けられているのか、診療所が避けられているのかは解らなかった。
イシさんはそうでもなさそうだが、自分たち神代の家が避けられているのかもしれない。

(許嫁は、やっぱり嫌なのか)

考えられるとしたらそれしかなかった。村の掟、生まれたときから背負わされている立ち位置。が、それを嫌がって避けているのなら、明確に身体つきが変わってきた辺りで避けられ始めた理由が解ってしまう。
もしもそうだとしたら、どうしたらいいのか一人は解らなかった。

一人自身が、とそういう関係なのを嫌だと思ったことが、なかったから。
一人の将来には、がいるものだと、ずっと思っていたから。

「じゃあね」

にそう言われて、一人は何も、――何も返事ができなかった。


***


それでも一人はから完全に離れられなかった。心配だったとも言う。
としては親なしというカテゴリで一緒にいるのかもしれないが、男の一人から見たらあのグループと一緒にいるのは、少しばかりどころか多大に不安があった。
男同士でなら出てくる会話の中で、あのグループの素行が本当に良くはないのだ。グループのメインが一人と同じ学年なのもあり、多少なりとも耳に入ってくる。その中身が女性のには言えないようなことなので、に言うときはああいう物言いになってしまったのが駄目だった。
だががそれも知っていて一緒にいると決めたなら、一人はもう何も言えない。
惚れた男ができたのなら、一人はそれこそ見ているだけしかできない。
ただ、自分がに何かしてしまって現在そうなっているのなら、話を聞きたいとは思っていた。謝罪をしたいとも思うし、掟のことで何か思うことがあるなら、先に相談してほしいとも感じている。それこそ、村の人間に納得してもらえる妥協点を探さないといけない。神代の家がなくなるのは、流石に一人自身あまりいいとは思っていない。
の父親が死んでから、は目に見えて大人しくなっていった。元々大騒ぎするタイプでもなかったが、それでも気落ちしていったのがよく解っていた。だからこそ診療所の面々は夕飯だけでも食べにくるように誘うが、断られてばかりなので心配だけが募っていく。
命を絶つタイプではないのが救いだが、今後どうなるかなんて誰にも解らない。気にかけるしかないが、に明確に拒絶をされている状況は、どうしたらいいのか一人は解らず立ちすくむしかなかった。

(付きまとっていると思われたら否定ができないかもしれない)

一人のクラスはHRを早く終える教師なので、一人はすぐには帰らずに校門が見える図書室に移動して外を見ていることが多い。がきちんと帰るならそれでいいし、せめて女友達と一緒にいるならまだ安心ができた。
こんなことまでしていると知られたら、にどんな顔をされるか解らない。知られたくはないが、心配なものは心配である。
あのグループが、大人しくたちと一緒にいるだけだとは思えなかったのだ。

その日は中々の姿が見えなかった。の友人の女生徒は早めに校門を出ていたのが、不安を募らせた。は部活もやっていないし、委員会などもやっていない。
そもそも、の教室は、もう電気が消されて暗かった。
嫌な予感がするが、自分がの姿を見落としたのかもしれない。
そんなこと、あり得るわけがないと自分自身で否定する。を見落とすことが、一人の中であり得なかった。都会のように大量の人がいるならまだしも、この学校の規模の下校時間でを見つけられないなんて、一人としてはあり得ないのが自分で解っていた。
ふと、使っていない空き教室で人影が見えたのに気づく。
電気が付いていないのできちんとは見えないが、あの教室はほとんど使っていない物置きに近い場所だった。何だか胸騒ぎがしている。人影がひとりや二人見えるので余計胸騒ぎが大きくなる。

(……違ったら違ったで、今日は帰ればいい)

自分の嫌な予感が当たらなければいいと願って、一人は早足で図書室を出て空き教室へと向かった。



――もっと早く気づいて、走ってでも移動していれば良かったと、一人は何度も自分を責めるようになる。自分がを見つけられないなんてこと、ないのだから。もっと早く気づけたはずだった。もっと早くの傍に行くことができたはずだった。もっと早く、を理不尽なことから守れた、はずだった。

が一人の顔を見た途端、少し安心した顔をして倒れ込んでから、また失敗したと、自分の不甲斐なさで目の前が真っ赤になった。