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その人に逢うのは、週に2回だけ。

しかも放課後は部活があるので、昼休みの短い時間のみ。昼食を食べた後の、本当に僅かな時間。
家にある本は読みつくした。本屋に行く時間も最近はないので、自然と鷹の足は帝黒学園の図書室に向かう。帝黒学園の規模と比例して、付随している図書室も随分大きい。家の直ぐ近くに図書館がないのと、下手な市立図書館よりも数がある。それだけで鷹が毎日のように通う理由になった。
毎日通っても、毎日借りるわけでもない。最近借りるのは、週に2回だけ。昼休みの時間帯のみだった。
物色は毎日するけれど、借りるのはあの先輩が居る2回だけ。鷹は自分のその行動がどういうことは解っていたけれど、誰にも言う気はなかった。誰にも、悟られる気もなかった。この気持ちと行動は自分だけが知ってれば良いと勝手に思っている。心の奥底で、大和や花梨に知られたら恥ずかしいなどという気持ちには蓋をして。
だからこそ毎日図書室に通う。一度当番の日にあの先輩が居らず、違う日に当番をしていたのを見てから、とりあえず毎日通うようになった。そっちの方が自分の行動の意味も解りにくくなるだろうし。そう鷹は思って毎日昼休みに図書室へ通う。
図書室で昼を食べることができれば良いのに。鷹は最近そう思う。

「ハイ、期限は1週間後です」
「…どうも」

いつまで経ってもぶっきら棒にしか返事ができなかった。この人が週2回図書室の当番をしているという以外、学年も名前も知らなかった。とりあえず敬語は使おうと思っているのだが、何故だか緊張して上手く使えない。
最初、何も言わずに渡される本を受け取っていた時に比べればこれでも進歩したほうだと勝手に思っている。声が、出るようになっただけまだ良かった。
この図書館の、受付テーブルに座っているところしか見たことがない。帝黒の制服はそれだけでは学年が幾つだか解らない。上履きや生徒手帳の色を見ないといけないのだが、いつもこの定位置に座って静かに仕事をしている彼女の上履きや生徒手帳なんて、見れるわけがなかった。
名前を知りたいとは、思うけれど。せめて学年くらい解ればなあと、本を受け取って踵を返しながら心の中でぼやいた。自分が中学から高校に上がる前から当番をしているから、年上だということしか解らない。帝黒学園の図書委員の受付カウンターは、何故か高校生からしかできないからだ。

図書室で静かに仕事をして、本を読んでいる姿しかしらない。本の貸し出しと返却以外では彼女の声は全くと言って良いほど聞かない。時折、司書の人と仕事の話をするのを聞くことはあるが。図書室という場所の特性上、何か話してるくらいでしか聞こえない。もっと、ちゃんと聞いてみたいとも思う。
どうやったら良いのかなんて、解らないけれど。