本の貸し出しと、返却の際には彼女の手元ばかりを見てしまう。
ただ単に目のやり場に困るというか、顔をジロジロ見るのは失礼かと思ったら自然と手元にしか目線が行かなくなった。
指先が、細くて綺麗だ。
当たり前だけれど自分とは大きさも形も違う。自分も指は細いほうだとは思っていたが、彼女はやはり女性なのだと解る。骨ばっていない。
図書室当番のせいだろうか、時折切り傷のようなものが見れる。本当に、うっすらと切れているのが解る程度のものだけれど。
(ああ、勿体ないな)
綺麗なのに。
「はい。返却ありがとうございました」
「…どうも」
前に読んだ小説で、指と指が触れ合って意識するという場面があった。今の自分だったら、気持ちが解らなくもない。本の受け渡し程度では、触れ合うことなんてこと無いけれど。あの綺麗だと思った指先が、自分に触れたらそれは意識しないほうがおかしい。
流れるように貸し出しや返却手続きをする彼女の指は、しなやかで女性的だ。本を扱う手も、パソコンのキーボードを打つ指先も、自分とは全く違う。まあそれを言うなら、腕も骨格も全て性別的に違うのだから当たり前なのだけれど。
そういう、当たり前に違うことに惹かれていた。
傷のついた彼女の指を見るのは何故か嫌だった。そもそも、女性の手が傷だらけなのは正直見ていられない。
保健室で何枚か貰った絆創膏を、鷹は制服のポケットに入れて持ち歩くようになった。