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ひょんなことから、アメフト部の練習を見る機会があった。

基本的には平々凡々の能力しか持ち合わせていない。帝黒学園のアメフト部は超人たちの集まりという話を聞き、更にはまあ何軍にも分かれているだのなんだのを聞くと、うちの学校には雲の上の人たちが沢山居るんだなあという認識しかなかった。別に運動部に入ることもないし、マネージャーをやる気もない。そもそも帝黒のアメフト部は低い軍の人たちがマネ業をしているらしい。流石人数が多いだけあるなあと、は変に感心した。
外や体育館で頑張ってスポーツに励む人たちを見ると、あー凄いなあと思うだけだった。暑いのは苦手だった。寒いのも苦手なのだけれど。運動ももの凄い得意なものがあるわけでも、できるものがあるわけでもなかった。ちょっとした腐れ縁でマネ業はしたことあるけれど。
そんなわけで別に運動部に興味を持つことはなかった。見ていて楽しいのは胸躍るような展開があるときだけだ。練習に興味も沸かないし、わざわざ見に行ってキャーキャー言うのもよく解らなかった。好きな人ができればそういうのも理解できるようになるのかもしれないが、今のところそんな予定もなければそんな理由を作るつもりもない。

そんながアメフト部の練習を見たのは、本当に偶然だった。

「っあー!やっぱ普通のグランドじゃあ感覚変なるわっ!!!」
「せやかてしゃあないやろが。専用グランド整備の日なんやから文句言うなやアキレス」

委員の仕事帰り、グランドの横を通り校門まで進んでるときにようやっと、そのグランドで練習しているのがもの凄い噂を振りまいているアメフト部の面々だということに気づいた。クラスに一人はアメフト部の部員がいるが、別段話すこともないし、第一メットを被っていると誰が誰だか解らない。今の大声での会話が耳に入ってきて、ああ、専用グランドまであるアメフト部の人たちなのかと合点がいった。どうりでいつも見るより人数が多いわけだ。

「ちゅーてもあと1プレーでお開きやな。こっちの普通のグランドは閉まるの早うてかなわんわ」

その言葉に部員たちが返事をして、ぞろぞろと定位置のような所に動いていく。元気だなあと思いつつもうその面子に興味はなくなり、はいつものように校門を目指して歩いていった。
英語のような掛け声が聞こえた後にぶつかり合う音がして、何かが空高く舞い上がるのを横目で見えた。
思わず気になって顔を動かし、その空中の物体を見ようとした。



***



「…よーし今日はこれで終いや!明日は朝練前に練習スケジュールの連絡あるさかい、始まる10分前には集合しとけよー!」

部長だろうか、低いながらもよく通る声がグランド中に響いた。
最後の1プレー。それはあまりにもあっさりと終わってしまった。はアメフトのルールは全く解らない。ボールを捕られたら終わりなのだろうか?よく解らないが、最後のプレーで、ボールを捕ったのが誰かなのかは、直ぐに解った。
放物線を描きながら空に舞い上がっていたのは、アメフトボール。それを信じられないような高さで手に取ったのは、メットを被っていても解るくらい長くて綺麗な銀髪の男の子だった。
高くジャンプして、銀髪をなびかせながらさも当たり前かのようにアメフトボールをキャッチしていた。思わず足を止めてしまうほど印象的だった。目に焼きつくというのは、こういうことか。未だに頭の中でその光景が繰り返される。

図書室に来るあの子とは、何かが大違いだった。
何が違うのかは解らない。けれども、今メットを外して汗を流している本庄鷹は、図書室に来るときとは全く別人のように見えた。
…やっぱり運動部だった。誰よりも高く跳んでボールを捕っている姿は、想像していたどの部活よりも、しっくりきた。

(ああ、でも)

想像以上に、体育会系な部活だった、かも。
はそんな感想を心の中で呟きながら、ようやっと校門を出て帰宅していった。