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印象的だったアメフト部の本庄鷹くん。図書室の常連さん。
次の日、また偶然にも廊下で会うことがあった。
友人と言われると何とも言えず微妙なのだけれど、顔見知りではある。近所の人でも顔は知っているのに苗字は知らないという仲でも挨拶は普通にしたりする。そういうもんだと思っている。別段今まで図書室以外で喋る機会がなかっただけのようにも思う。
こちらから普通に挨拶をすれば、いつものような返し方をされた。意外と人見知りなのかもしれない。ぶっきら棒な喋り方はクラス替え当初の男子たちの反応ととてもよく似ている気がした。

そんな風に返事をしてくれる彼を見て、また昨日のことを思い出した。元々高い身長なのに、自分の背なんか飛び越えてしまうのではないかというくらいの跳躍力。走り高跳びとかの選手は、あれ以上跳ぶのだろうか。アメフトの高校生の選手であれほどなのだから、アメフトのプロの人や、オリンピックに出るような高跳び競技の人たちは更に高く高く、あの空へと跳ぶのだろう。理解できない世界だった。どういう身体の構造をしているのか。
メットを外した後の彼は、汗まみれだった。まああんな暑そうなユニフォームを着て、メットまで被って走ってるのだ。汗をかかないほうがおかしい。けれども、あんなにも体育会系な部活をしているのに目の前の彼は色が白い。髪の毛も痛んでいる様子が全く見られない。何とも羨ましいことだった。
そんな気持ちが思わず出てしまう。

「本庄くんは、アメフト部なのに色白いよね」
「………」

ちょと驚いている顔が見えた。見れば見るほど色が白い。いやそもそも、銀髪なんだし、色素自体が薄いのは当たり前だろうか。羨ましい限りだった。まるで欧州人のような色素だ。顔はアジア特有の顔だけれど、色素の薄さだけでハーフのようにも見えるのだから役得と言えば役得かもしれない。
ちょっとだけ驚いている顔は、可愛らしい。

「…部活のこと、知ってるんです、か」
「うん、昨日練習見えたの」

アメフト部なんて、凄いね。
自分は絶対にしない選択だから、素直にそう思う。自分がもし男だったとしても、アメフト部に入るかどうか。運動部に入るとしても、メジャー所のサッカーや野球、バスケ辺りに入ってそうだった。小学校の頃、幼馴染の影響かミニバスをやっていたからそのままバスケ部に入る線が濃厚だろうか。そもそも、男になったからといって運動能力が上がるかも微妙なので、結局図書委員して帰宅部という青春とは反比例の生活を送ってるかもしれない。

「…そうでも、ないですよ」

そうだろうか。彼はとてもとても、綺麗に高く跳んでいた。まるで歩いているかのようにボールを捕りにジャンプするのは、同じ人間なのかと思えるほどに。
図書室に来る彼は普通の読書好きな、男の子なのに。昨日の彼は確かに何かが違った。
今見ている彼は、いつもと同じような本庄鷹くんなのだけれど。

他愛もない話をして、別れる。彼が歩いてきていた廊下を自分は逆に歩いていく。次のコマが終わればやっと昼食だ。自分は当番じゃないので、今日はもう会うことはないだろう。午後の授業を終われば、本庄くんはまた部活だろうから。多分毎日部活なんだろうなあ、大変だなあとやはり他人事のように考えた。信じられないほどに忙しいのだろう。だけれど。

(…今度、私が当番のときにまた来てくれるかな)

いや、多分また来てくれるだろうと、自分の考えを打ち消した。
部活で忙しいだろうけど、また図書室に来て利用してくれるだろうとは確信めいたものを感じていた。