「え、送り迎え要らない?」
「ん」
「何だどうした。トレーニングと読書の時間考えたら俺が迎えに行ったほうが良いだろう」
「…部活の人たちと帰るから、しばらく良い」
本当のことは言わずに、鷹はぶっきら棒にそう言う。あくまでそっけなく、気づかれないように。
それでも耳が赤くなっていて不自然な態度なのはどうにもできなかったらしく、父であり人生経験値も鷹より高い本庄勝はピンと来てニヤニヤし始めた。
「ははー、ほー、鷹もお年頃かー。まあ青春は今の内だからなー」
「……」
気づかれてしまって鷹は内心焦る。どうしてだかこの父に彼女ができたことを言いたくなかった。言ったら最後根掘り葉掘り聞かれるような気がするからだ。あと今のこの顔を見たくなかった。人を殴ったことはないが、この父親の顔を見ていると無性に本気で殴りたくなってくる。
とりあえずこのままこの場所にいたら更に色々言われそうだから、会話をぶった切った。
「とにかくもう車は良いから。トレーニングは変わらずやるし、文句はないだろ。……部屋に戻るよ」
「おお」
少しだけ足早に去っていく自分の息子を見て、父の勝は何だか感慨深かった。やはりいつまでも子どものままではいないらしい。
まあ顔は母親似で綺麗だし、いないほうが不思議と言ったら不思議だった。しかしからかいたくなってしまうのは何故なのだろうか。
「まー、迎えに行かない分時間空くから、俺も母さんに家族サービスするかなー」
そんで鷹のことをネタにして色々話そうと、勝は一人笑った。
***
『明日委員会で遅いから、一緒に帰れない?』
さっき貰ったそのメールに、鷹は部屋に戻ってから返信し始めた。
短い文章を返すだけなのに、大和や花梨にメールを送るよりも考えて誤字脱字がないかのチェックをしっかりする。
明日は、先輩と一緒に帰れる。
途中まででしかないが、それでも学校から考えればそこそこ一緒にいられる。クラスどころか学年が違う自分たちとしてはそれは結構大きな時間だった。
『はい。部活終わったら行くんで、図書室で待っていてもらっても良いですか?』
何とも素っ気ないし、色気もへったくれもない。男の自分がそういうのを気にしてもどうなのかとも思う。絵文字とか顔文字とか何とも難しい。電話をしたほうが色々喋れるし便利なのだが、時間を考えないといけないし未だ学生の自分は通話料金も気にしないといけない。それは先輩も同じなので、必然的にメールが主体になってしまう。
基本的に自分が部活で遅くなってしまうので、先輩とはそこまで一緒に帰れなかったりする。遅くまで残ってもらうのも悪いし、先輩も先輩で友達と一緒に帰ることも多いからだ。
でもこういうときは、先輩は連絡して一緒に帰れないか聞いてくれる。
自分の父親は変なところ過保護なのか、時間があれば学校までの送り迎えをしてくれたりする。別にそれを嫌だと思ったこともないし、荷物が多いときはラッキーだとも思っていたりする。子どもからしたら親の車での送り迎えなどそういうものだろう。
その車に乗っている時間で読書もできるし、時間短縮でトレーニングに打ち込める分鷹としても勝としても利点があった。
あったのだが、鷹には大切にしたい時間が、できてしまった。