51.笑顔が増えた君


「鷹は変わったなあ」
「俺?」
「自覚はない?」
「トレーニングは変えてないし、プレーを変化させたつもりもないけど」
「ああ、ごめんそういうことじゃない」
「?」

大和に言われて鷹は首を傾げた。何の話をしているのか解らない。
いつもの歯の見える笑顔を浮かべながら、大和は鷹にさらに問いかけた。

「前よりも笑う回数増えたけど、自覚は?」
「……」

思い当たる節しかなくて鷹は黙り込んだ。その言葉自体、家族からも言われているからだ。
父親に彼女ができたことがバレてから、母親と姉にも芋づる式に知られており、とてつもなく揶揄われている。ただ、笑顔が増えただの楽しそうにしているだのと勝手に家族は嬉しがり、勝手に彼女である菊花先輩に対して感謝をしている。意味が解らない。会わせてもいないのに何故か気安く菊花先輩の名前を呼ぶので、鷹はさらに意味が解らないと首を捻っている。
美味しそうなお菓子を貰ったら何故か菊花先輩にも持っていくように言われている。菊花先輩がそれは大層喜んでいるのでいいのだが、この謎の関係は何なのか。お互い顔を知らないのに勝手に知り合いのようになっているのが不思議だった。
無言の鷹に対して、大和は続けて口を開く。

「自覚はあるんだな」

ハハッと大和は笑った。鷹自身はそこまで笑っているつもりはないのだが、周りからそうやって言われるくらい笑顔というものが増えているらしい。

「……先輩の前でなら、笑ってるだろうとは思うけど」
「惚気か?」
「まさか。大和の前でも笑うことが増えてると思わなかったって話だよ」
「そうだな。だから俺も驚いてる」
「……」

揶揄われているような感じではないが、何だか居心地が悪かった。
先輩と付き合うことでそんなに感化されているとは思っておらず、自分が今までどれだけ無表情だったのかも突きつけられて座りが悪い。大口開けて笑うなんてことはないにしても、こんな風に家族や友人にまで面と向かって言葉にされるほどなのかと、鷹は驚くしかなかった。

「別に、部活に支障はないだろう」
「ああ、そりゃあ勿論。むしろやる気があって俺は嬉しい限りだよ」

次の試合、見に来てくれるのか?
大和にそう言い当てられて、鷹は無言でアメフトボールを大和にパスして練習の続きを促した。

24/06/26
花梨からも「彼女さんからメール来てるとき解りやすい」と言われて照れたりもします。
鷹くんの最高の微笑みを真っ正面から受けている菊花先輩は鷹のことをいつも眩しい人だなあと思っています。
本庄鷹くん誕生日おめでとうございます。