余計な心配

5万打御礼企画


その日は何てことはない、普通の日常のはずだった。
たった一つの出来事で、その普通が普通ではなくなったこと以外は。



「あぶねえっ!」
「…え?」

そんな叫び声が聞こえた後に行き成り空が暗くなったと思って上を見上げたら、鉄の塊が落ちてきているのを自分の目で見て理解した。
え、逃げ切れないし、もしかしなくても自分は死ぬのだろうかと、その鉄の塊を見つめながら動けなかった。
もう駄目だと思って目を強く瞑った後、ガシッっと何かを掴む音だけ聞こえて、来るべき衝撃は何も無かった。
どういうことなのか全く解らずに目を開けたら、落ちてきていたはずの鉄の塊を片手で持ち上げている、大柄な男の人。
…展開が速すぎて、付いていけなかった。

「っと、危ねえな。大丈夫だったか?」
「…え?…ぇ、と、はい?」
「怪我は?」
「して ません…」
「あー、それなら良かった」

そう言ってその男の人は笑った。…あ、何か顔の割りに可愛い笑い方をする人だなあ、ってぼんやり失礼なことを考えた。
っていうか、何か、話の展開が速すぎて付いていけてないんですが。

「おいおいおい、ラディッツ!お前よくやった!」
「そう言うならもっと頑丈に鉄筋支えておけよオッサン!」
「う、それを言うな…。それよりも嬢ちゃん悪かったな。危ない目に合わせて」
「は?ええと、取りあえず生きてるんで…」
「そりゃあ良かった!」

そう言って豪快にその工事現場のオッサンらしき人は笑う。
…つまり私は工事現場の鉄筋に潰されそうになったと、そういうことですね。
そうしてこの…えーと、ラディッツ、とか呼ばれていた人に、助けられたと。
…いや、って言うか落ちてくる鉄筋支えるとか、…何事?

「お前がタダの人間じゃなくて良かったなあ本当!」
「俺が普通の人間だったらどうしたんだよ!」
「そりゃあお前、俺等家族共々今日明日には首くくってたかもしれねえなあ!」
「うわ止めろそういう話!」

鉄筋を軽く持ちながらそのラディッツとオッサンは話をしている。
た…タダの人間じゃないって…?人間じゃないってこと?それとも超能力者とか?
ああでも意外とこの世界変な人も多いから…まあ落ちてくる鉄筋を受け止めるのも、…出来るのか?
人間だけじゃなくて別種の生き物も多いし…人間に見えるそういう種族、ってことかな?何ていったってこの国の大統領は犬だし…。
ああでもそんなこと関係無い。私はこの人のお陰で助かったんだ。

「あ、あんた学校行く途中だろ?気をつけて行けよ!」

そうやって笑うその人はとても格好良く私の目に映った。
…その日、学校の授業など耳に入ってくるはずもなく。
またそれから毎日その工事現場の隣を歩くようにしたことも、言うまでもない。


***


「ああもうどうしようかな…」

工事現場が近くなるに連れて自分の心臓が速く動くようになる。ああも…今日こそは渡したいのに…!
あの日以来あの場所を通って通学してるわけだけど、ラディッツさんはこちらに気付くと必ず挨拶してくれた。もうそれだけで好感度アップですよ奥さん…!
工事現場の中で一番若い人みたいだけど、馬車馬の如く使われていた。しかも主に力仕事関係に。
鉄筋を一つ持ち上げるだけで凄いのにラディッツさんは2・3個軽く持ち上げているのを見たときは卒倒しそうになった。何て人なんだ…!
…いや人なのか正直解らないけど、でも人っぽい感じだから人で良いよ。愛に種族なんて関係無いんだよ。

言葉だけのお礼だけじゃ足りないよなあと思ったのは助けてもらったその日。それから毎日悩みに悩んでようやく決めたのだ。
取りあえず無難にお菓子の詰め合わせを買って包装してもらった。…喜んでもらえるだろうか。た、タオルとかの方が良く使うかな…。
そんなことを考えていたら工事現場に着いてしまった。うああ、うけ、受け取ってもらえるかな…!

工事現場の入口付近で衝立に隠れながら中を盗み見た。
どうやら昼食時間らしく、皆でご飯を出して食べている最中だった。因みに私は学校自体が午前中に終わったのでここに来ているのであります。
本当何をしてるんだろう私…。
ああでもラディッツさんの姿を見れたからまあ良いや。
何やら必死にカバンを漁っているけれど…。……もしかしてお弁当忘れたとか?

カバンの中身全部出して、あー!やっぱり無ぇ!と叫んでるラディッツさん。
私はそんな姿も結構可愛いなあと思った。
その直ぐ後に、今持ってるこのお菓子の詰め合わせとか結構良いタイミングで渡せるんじゃないかと、ちょっと考えていたら後ろの道路で車が止まる音が聞こえた。
バタンという効果音と共に、誰かがこっちの方、工事現場に向かってくる足音が聞こえる。
こんなところで立って工事現場見てる私凄い変な人間だからヤバいと思って振り向いた瞬間、今の私が一番興味を示す単語が聞こえた。

「ラディッツ!」
「…え」

後ろから来たのは女の人で、その女の人はラディッツさんを呼んだ。
こんな時だけ私の頭はスーパーコンピューターすらも凌駕できるんじゃないかというくらい早く動く。
女の人→ラディッツさんを呼び捨て→仕事場にすら来れる→…答えは言わずもがな。
え、ちょ、あの、私もう失恋?だって凄い綺麗な女の人で、スタイルも良くて、…嗚呼駄目だ、しつ…失恋なのかもう!?
マッハで叩き出した答えに私はもの凄いブルーになった。
そうこう考えている内に、その女の人はそのまま工事現場に入っていった。

「ラディッツ!アンタねぇ!」
「え、ちょ、何でこんな所来てるんだよ!」
「アンタが折角作った弁当忘れてるから届けたんじゃないの!要らないならアタシが食うよ!」
「あ、やっぱり忘れてたのか」
「忘れるな!」

あああああおべ、お弁当作ってもらってたんだ…!
しかもあの、話の流れ的に…一緒に住んでる、とか?へ、へこむ…。

「おう、じゃねえか。元気か?」
「いやー、棟梁久しぶりっす。アタシは元気。こんな子で本当すみませんねえいつもいつも…」
「うるせえよ…!」
「そんな口きく奴には昼どころか晩飯も抜きだよ」
「スミマセンデシタ…っ!」
「ラディッツもちゃんには弱いよなー」
「アッハッハ。そりゃあしょうがないよハチさん」

和やかなムードが工事現場に漂った。う、うう…工事現場の皆さんにも認知されていらっしゃる…!
しかも昼どころか夜ご飯まで作ってる仲…。あ、駄目だテストで悪い点数取ったときよりも何か動悸息切れが酷い。

「取りあえずハイ」
「あー、…有り難う、御座います…」
「ん、宜しい」

ああ本当落ち込む…本当ショックだ…。
何か会話に引っかかりを覚えつつも私は意気消沈。
涙目になりつつまたラディッツさん達の方を向いたらって言う女の人がこっちを見てるのが見えた。…え。

「つーかさ」
「あ、何?」
「そこの工事現場の入口で何か女の子居たけどアレ何?」
「は?」

はーっ!?ちょ、わわわ私のこと言われてるよ!あああヤバイ逃げ遅れた!ラディッツさんこっちに気付いちゃったし!

「うわわわわどうしよう来てるよ…!」

ああそうこうしてる内に目の前に…!うああ、ち 畜生…!

「何だ、また来てたのかー。学校は?」
「え、あ、ええと午前中で終わって」
「へー。良いなこんな時間に帰れるって」

あははそうですよね!何て高いテンションで返事をする。うああ何か頭がパニックだ。
と、取りあえず当初の目的のお、お礼の品を渡してもう帰ろうって、思った。

「あの」
「ん?」
「ええと…この間のお礼です…。遅くなってすみません」
「は!?え、いや別に良いのに」
「いえ、助けてもらったわけですし…」

心臓がバクバク動いてるのが解った。ああ恥ずかしいよう。
目が回りそうで頭が沸騰するんじゃないかと思った。
そんな時にラディッツさんの後ろから、…、さんが。

「あれまー」
「ちょ、何だよ行き成り!」
「いやアンタがまさか女の子からプレゼント貰うなんてねえ…」
「う、うるせえな!」
「アッハッハ。しかしまあ…」

そう言葉を切ってさん、は、私の方を見た。
う、見れば見るほど綺麗だ。羨ましい。大人の女の人、って感じがする。良いなあ。
そう思って見てたら、さんの顔がにまあって笑顔に変化した。…!?

「…くくっ…ラディッツ…アンタこれ貰わないなんて言わないわよね?」
「はあ?当たり前じゃんか。くれるっていうなら貰う」
「だそうよ?良かったねアンタ」
「え、あ…あの、じゃあどうぞ…」

お菓子の詰め合わせですけど、口に合わなかったら捨ててくださいって付け足したらラディッツさんは目を輝かせた。
ああ畜生。何でこの人こんな大きいのに可愛いんだ…!

「食い物か!?ありがとな!」
「いえ、そんな…」
「くっ…(駄目だこの子達面白すぎる…!)」
「…何でそんな笑ってるんだよ…」
「い、いや…(アンタ鈍すぎる…!)」
「?」
「ぶふっ…!あ、アタシも…もう帰るわ」

え、帰るの!?そう思ってさんを見上げた。っていうか何か笑いすぎじゃないかこの人…!し、失礼だ…!
私じゃ相手にならないからって、失礼だ…!
って思ってみてたら、ラディッツさんが衝撃的な一言を発した。

「おー、じゃあなお袋」
「…………………………は?」

その衝撃的な一言を理解するのに私はもの凄い頭を使った。
Page Top